こんにちは! SmartHRのプロダクトサイドでUXライターをやっている、おおつかあぐり(@aguringo)です。開発現場では、UIテキストの作成や デザインシステムの整備 をしています。
以前、こちらでも 豊田聡さんがアジャイルコーチとしてジョインしました! で紹介させていただいた通り、SmartHRの開発組織はアジャイルコーチの豊田さんにサポートしていただいています。
およそ半年間、豊田さんの助言を受けながら、SmartHRの開発組織はアジャイルの推進を加速させてきました。スクラム勉強会 を実施し、アジャイルやスクラムを概念として理解し、実務ではフィーチャーチーム*1にエンジニア以外のスキルセットを持つメンバーが入っていくという試みも進めています。
今回は、非エンジニアでありながら、スクラム勉強会第2期卒業生*2である私が、豊田さんに興味津々、じっくりとお話を伺いました。
アジャイルを目指す組織とサーバント・リーダーシップ
― まず、アジャイルコーチとはどんな役割なんでしょうか?
「アジャイルコーチ」の仕事は、アジャイルコーチを名乗っている人によって違いがあります。僕の場合は、世の中の複雑さや変化に適応できる組織をつくるために、
- 組織のアジリティ、アカウンタビリティの向上
- 組織自らが足りないものに気づき、学習するような組織文化の醸成
- バリューストリームの最適化
を、チームや個人の近くで、その場その状況での変化と適応を促す存在です。
必要な概念やプラクティスをレクチャーすることもありますが、方法よりもその根底にある目的を理解できるようになることを重視し、会社の社風、チームや個人に合わせて観察し、共に考えながら進めていきます。
スクラムで開発を進めているチームとの関わりでは、スクラムマスターとしての役割ができる人を増やすサポートをしているので、スクラムマスターとしてチームと関わっています。
ー スクラム勉強会で「スクラムマスターとは?」という説明をしていただいた時に、「サーバント・リーダーシップ」というキーワードもありました。
サーバント・リーダーシップは、スクラムマスターをはじめ、アジャイルであることを目指している組織のリーダーに合ったリーダーシップのスタイルですね。指示・命令するようなリーダーシップではうまくいかないので、このスタイルをおすすめしています。
自身の経験から見出した、リーダーシップスタイルの最適解
ー それは、これまでのご自身の経験から導き出したスタイルなんですか?
「サーバントリーダー」という呼び方をいつ認識したかは定かではありませんが、実体験に基づいてます。僕は、最初は指示・命令スタイルのリーダーだったんですよ。
元々テレビアニメのアニメーターとしてキャリアをスタートし、次にゲーム業界で開発をしていました。ゲームのアニメーション開発をしていたとき、最初は4人チームのチーフになりました。「こうしてください、ああしてください」と指示をして、仕上がってきたものをチェックして修正指示をする。今、教えているスタイルとは真逆だったんです。
でも、規模が大きくなり、10人くらいになるともう回らないんです。
自分もプレーヤーだったのに、一人一人に指示をしていくと、どんどん自分の作業時間が削られていくんです。次第にメンバーに指示していくだけの人になっていって、「仕事つまんないな…」という状態になってしまって…
その時、「どうやったら、みんなが自分から考えて提案してくれるようになるかな」ということを独学ではじめました。90年代後半は、今みたいに情報が簡単に手に入る状況ではなかったのですが、その後、転職先でマネジメントを相談できる人に出会ったりして、学びを深めていきました。もちろん実践に生かして、最終的には100人前後のプロジェクトをずっと見ていました。
ー 豊田さんがSlack上で、「クロスファンクションに取り組んでいくにあたって、メンバーが新たな専門性に挑戦していくときに、自分が一番専門性が高く、その分野にみんなもチャレンジするのであれば、自分の考え(答え)を先に言わない方がよいです。」と回答していたアドバイスが、私はとても印象的でした。
リーダーが指示していると、メンバーはその人がいない間は動いてくれなかったり、指示した範囲外のことに気を利かせてくれる人がいなくなってしまうんです。
必要なことだけ伝えて、「目的に沿うようにやってみてください」というと、初回からうまくいかなくても、次第に自分なりにやり方が確立されていきます。そうして過ごした1年は、指示・命令のもと過ごした1年とはまるっきり違う姿になります。
自律駆動のカルチャーと、変化に適応する意思
― なるほど… 「指示がないと気を利かせて動いてくれる人がいない」という点ですが、SmartHRには自律駆動という土壌があって、各々がいろんな課題を見つけて取り組んでいるという自負があるのですが、豊田さんから見て、他と比べてどうですか?
SmartHRは、私自身が経験した環境とはスタート地点が違いますよ。お世辞抜きで、僕のキャリアの中での一番高みを目指せるんじゃないかなと、期待しています。
前提として、世の中の複雑さに適応し、変化していこうとするベクトルの向きが合っていて、着想からリリースまで短くしたいという部分の合意もできている点は大きなアドバンテージです。
ー 合意できている状態ってアドバンテージなんですか?
はい。
「最短距離を行こう」(注:2021年上期プロダクトサイドのミッション)と方針が示されても、各人がそれに合わせて自分の仕事のやり方を変えていけるかというと、簡単ではないですよね? それは合意できていない状態です。
変化を受け入れて、自身も変わろうと意思を持つことが、合意できているということですね。
ー 自分は変わるの大変だから、他人に変化を求めちゃうということですね。
一般的にはそういうことが多いです。
SmartHRの開発組織に対する想像と実際
ー 冒頭から褒めていただいてとってもうれしいのですが、SmartHRの開発組織に関わる前に想像していた印象と実際の姿にギャップはありましたか?
もうちょっと静かなのかなと思っていました。扱っているものが人事労務だという印象からか、なんとなく、おとなしくて真面目そうな人が多いのかと。
しかし、実際はみなさん活発だったし、ネガティブなことにも深刻になりすぎず、楽しみながら取り組みますよね。
イメージ通りだったのは、大人が多いところ。みなさんがご家庭と仕事を両立させているところは、想像通りでした。サービスリリースから5年のスタートアップにしては、一定数、大人のメンバーがいるので、わちゃわちゃしていても収拾がつく。建設的で迷走しにくいと思います。
ー 先ほどの合意は難しいという話とも関係しますが、今のどんどん人が増えている組織で、みんなの意見を合わせるコツとかってありますか?
「大人が多い」という印象につながるんですけど、時間に対する意識が高いから、収拾をつけられるんです。時間の制約があると、結論が見えず話し合いが終わらなかった時に「これ以上考えてもわからないから、とりあえずやってみよう」という力が働くんですよね。
もちろん、腹落ちするようになるまで話すことも大切ですが、歩み寄れないならば、試した上で考えたっていい。
そこに至ることができる時間意識には、実はプライベートが影響してるんですよ。「プライベートもちゃんとしていこう」という人が多くて、時間内でケリをつけようと思っているように見えます。
ー その課題感があるから、豊田さんが教えてくれた考え方や取り組みに対して、「こんな良いものが!」という反応になるんでしょうね。
SmartHRの開発組織に浸透して「よかったもの」
ー 豊田さんにご支援いただいていることは本当に多岐にわたって、いろんなものをSmartHRにもたらしていただきました。取り組みの中で、これが浸透したのはよかったというものはありますか?
私は、この考え方がわかったら、みなさんがアジャイルな組織になるために自身がどう変化すべきか理解できるんだろうなというものを、外から持ち込んでいます。
「フロー効率」と「バリューストリーム」
この2つがないと、最短距離を行こうとするときにとる手法が変わってしまいます。みんな自分の仕事をちょっとでも早く、多くアウトプットする方にチューンナップしてしまいます。この考え方が浸透したのはよかったですね。
SmartHRには、いろんな人が転職して集まっています。その中には、自分の仕事を早くやることが美徳とされている会社から来た人もいる、そうでない人もいる。そこに「バリューストリームって考え方があってね」と、今まで持ってなかった視点を入れると、みなさん、納得して変わっていけるんですよね。
人は過去の成功体験の方を引きずってしまいがちなのですが、その適応が速い。自分の中の価値観をリフレーミングするのが速いのは、SmartHRの文化なんでしょうね。
あとは、チーム単位、グループ単位で物事を進めようとした際にうまくいかなかったことに対して、チーム目標をみんなで決めようと取り組んだことは、合意形成に繋がりました。
ー チームメンバーが手分けして関係者にヒアリングして、持ち寄った材料を使ってチーム目標設定をする取り組みですね。
はい。あれが流行ったことは良かった。
あれをやっていなかったら、チーム内の意識ある人だけが動いていて、置いていかれる人が出てしまったかもしれません。温度感や意識のズレに繋がってしまったかもしれませんね。
ー 周囲にヒアリングする工程があるので、ヒアリングを受けた側が「自分のチームでもやってみたい!」となって連鎖が広がってますよね。今期の分析レポート機能チームのヒアリングは、チームのクロスファンクショナル化推進の動きも手伝って、エンジニアだけでなく、PdM、QA、デザイナー、UXライターも参加していましたね。
フィーチャーチームのクロスファンクショナルの最終形とは…?
― フィーチャーチームのクロスファンクショナル化の動きには、エンジニアのデザイナー化計画というものも出てきました。これは最近の個人的関心なのですが、クロスファンクショナルの最終形は、つよつよのエンジニアだけの世界になるんじゃないかと考えています。
それは、ある意味正しいんですけど、現実的ではありませんよね。
ー はい。専門性ってクロスファンクショナルと矛盾するのでは? と。エンジニアの専門性っていうのは、顧客の課題を解決するプロダクトをプログラミングで生み出せるところにあって、UI設計や品質管理にまで専門性を持つことができるんだろうかと。一方で、AIに仕事を奪われるんじゃなくて、開発者に仕事を奪われるのでは…と、UXライターの私は感じてしまいます。
それは、ないと思います。
開発では、多岐にわたることに対処します。その時に、チーム全体を1つの個性としてみるのが、クロスファンクショナルです。
チームはいろんな人の集合体。例えば、チームの中でUXライティングができる人は1人しかいなくても、チーム全体でみたときにUXライティングができるチームなんです。
つまり、開発者に仕事を奪われるんじゃなくて、みんな開発者になるんです。場合によっては、みんな売る人になることだってあるかもしせません。
そのチームメンバー間の境目がわからなくなっていくだけであって、1人が全部できるようになる必要はありません。
― チームを1つの個性として見るというのはどういうことですか?
当然、チームごとに雰囲気があって、全然違います。そして、1人入れ替わるだけでもガラッと変わります。個々人が得手不得手を持っているのと同じで、チームにも得意なこと、苦手なことがあるということです。
フィーチャーチーム化が進むと、PO(プロダクトオーナー)はプロジェクトごとにどのチームに頼めば良いかを考えやすくなります。ジョブタイトルごとにアサインをしなくて済むので、マネジメントコストも低くなりますよね。
SmartHRの開発組織の今後の課題は?
ー 今後のがんばりどころというか、課題って何でしょう?
完璧かと言えばそんなことはなく、課題はたくさんあるんですけど、みなさん、課題を拾って対処できていますよね。
ー 人はさらに増えていく予定ですが、組織が大きくなる上での対応はどうすればいいですか? 豊田さんにインストールし続けていただく必要があるのかなという気もしますが…
その心配も、これまでの僕の経験と比較すると、どうにかなりそうだなと感じています(笑)過去にサポートさせていただいた会社には、私が新しくできた部署に行き続けるということもあったのですが、広める仕組みがSmartHRにはある。
開発では、「アジャイルやっていきの集い」(注:日々、それぞれの持ち場でアジャイルやっていきを発揮しているメンバーが、週に1回集まって互いの悩みや知見を共有する会)で試してみたことをナレッジシェアしているし。
そもそも、全社会議で会社の預金残高の状態まで伝えられているじゃないですか。急成長だけどスケールに現実的に対応できている印象を受けます。「キャッシュの状態に限らずですが、透明性を高くしていく必要がある」というのは、たくさんの本に書いてあるけれど、実際にできている会社はなかなかありません。それが整っているのは強みです。
難易度が上がってくるかな? と思うのは、後から入った人が、今の在り方が正しいと思ってしまう状態を作らないようにすること。「今はこうだけど、この状態が自分たちは完璧だと考えていないよ」ということをわかってもらって、一緒に変化し続けること。
ー そうですね。変わり続けられる強さは維持したいですね。今日はどうもありがとうございました。そして、これからも引き続き、よろしくお願いします。
はい。よろしくお願いします。
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