こんにちは。SmartHRでUXライターをしています@8chariです。
先日、SmartHR Design Systemの運営メンバーで「ちいさくはじめるデザインシステム」を出版しました。本記事では、その著者である@uknmrと@aguringoに焦点を当て、書籍には載せきれなかったエピソードをお届けします。
2人は2020年3月入社の同期。プロダクトを開発しながらデザインシステムを運用してきた3年で、デザインシステムに対する認識やお互いの印象に変化はあったのでしょうか。同じく著者であり、デザインシステムの運営メンバーでもある私から、2人に聞いてみました。
@uknmr(以降、u)
ウェブデザイナーとして10代の頃から個人で活動を始め、大学でインダストリアルデザインを学ぶ。中小SIerに就職し主にJavaエンジニアとして働く。その後ウェブ系のフロントエンドエンジニアを経て、情報設計やデザインへの熱情を思い出した頃、プロダクトデザイナーとしてSmartHRに2020年3月入社。インターネット大好き。特にウェブ界隈を作り上げている思想とその人々が好き。
@aguringo(以降、aguri)
Web1.0をHTMLタグベタ打ちで楽しんだインターネット老人会員。就活ではWebの可能性を信じられず、コンテンツづくりを身につけるべく出版業界に。グローバルデジタルエージェンシーに転職後、コンテンツディレクションと情報設計のスキルを生かして、大手企業のマーケティング支援に携わる。2020年3月、ヘルプセンターのコンテンツ編集としてSmartHRに入社。SmartHRのバリューの一つ「一語一句に手間ひまかける」を体現し、あちこちで言語化を手伝っていたら、UXライターに。粒度を揃えるのが好き。
入社当時から通じていた「情報設計」の部分
8chari:2人とも入社3周年おめでたぅ〜👏です!入社当時のお互いの印象って覚えていますか?
u:aguriさんは、広告業界でバリバリ働いていた人という印象で。私は「aguriさんと話すのは緊張する」って、当時よく言っていました。
aguri:あー!言ってた言ってた!
8chari:今のお二人を見ていると、uさんがaguriさんに緊張している場面って想像がつかないですね(笑)
u:でも、プロダクト上の文言のユレを統一しようとする動きとか、言葉に関する部分で感覚が一緒だなという良い印象は当時から持っていました。私は、言葉はデザインの領域だと思っているので、ドメインも開発も理解して情報設計する必要があると思っていて。aguriさんは情報設計のスペシャリストとして近いところにいる人だなと。
8chari:プロダクトデザイングループとカスタマーサポートグループ、それぞれ別々の立場でSmartHRに加わったけれど、大事な部分で共感するところが当時からあったんですね。aguriさんはuさんの印象はどうでした?
aguri:内定者としてSlackチャンネルに招待された時点で印象に残ってて、さすが注目度の高いスタートアップには尖った人がいるよなぁと思っていました(笑)。でも、すぐに好感を持ちました。私の中でuさんは、童話「はだかの王様」で「王様、はだかじゃん!」と言っちゃう子どもなんですよね。これは、私からするとホメ言葉なんです。忖度とかいろんな理由であきらめちゃうようなことも、真摯により良くすることに向き合ってる人だと。
u:率直だという自負はしています(笑)
国内外の情報収集を日夜していた人と、存在すら認識してなかった人
8chari:uさんは、SmartHRに入社する前からデザインシステムに関心はあったんですか?
u:ずっと関心があって、デザインシステムについての情報収集を毎日のようにしていましたね。その中で、デザインシステムはGoogleやAtlassianといった、何百人も何千人もデザイナーがいるような大規模な会社が作っているということが見えてきました。これは、日本で同じようにやることは無理だなと思いました。
8chari:デザイナーだけで何百人、何千人…気が遠くなりますね。
u:また、海外のデザインシステムでは、何のためにやるのかというデザイン原則が定義されていたんですが、日本ではそれがなかった。従来の「スタイルガイド」や「コンポーネントライブラリ」が「デザインシステム」という流行りの言葉に置き換えられただけで、何のためにデザインシステムがあるのかを紐づけられていませんでした。
8chari:言葉を置き換えたことで、使い道や適用範囲がぼやけてしまう気がします。
u:そうですね、何に効くものなのかが曖昧になってしまう。単なる名前の置き換えではなく、そもそも何のためにやるのかという思想を明確にして、真っ当なデザインシステムをやりたいという思いが当時ありました。
8chari:一方で、aguriさんは入社するまでデザインシステムの存在を知らなかったと聞きました。デザインシステムに関わっていくきっかけは何かあったんですか?
aguri:基本原則にあるパーソナリティを決めるときにコミュニケーションデザイングループから声をかけてもらったことが最初のきっかけですね。そのときは、エージェンシー時代にクライアントワークでやってたようなスライドを作って、考え方を整理したり、キーワードの方向案をタタキとして作って打ち合わせに持参したりして、手伝いました。
8chari:UXライターという職種がまだSmartHRになかった頃ですね。
aguri:はい、当時はヘルプページを作る人でしたが、社員数が少なかったこともあって”ライティングつよつよの人”として声をかけてもらうことがありましたね。 で、プロダクト上のテキストを整理したいっていうことは、同期の中でプロダクトサイドにいたuさんとPMのkissyさんとよく話していて。直したいポイント、どんなテキストがいいかをドキュメントにまとめていくうちに、肩書きがUXライターに変わりました。ちょうどその頃に「デザイン原則を作るけど、やりたい人いる?」という呼びかけがあり、そこに手を上げました。
8chari:デザインシステムだからデザイナーだけというのではなく、そこにUXライターもジョインできるところがSmartHRらしいですね。デザインシステムのことを知らない状態で入社されたこともあり、難しさや大変なことはなかったですか?
aguri:あまりなかったですね。もちろん会話に必要な情報はインプットしたけれど、デザイン原則づくりは、ファシリテーションと言語化の作業なので。個性豊かなプロダクトデザイナー3人の考えを深ぼってキーワードを抽出する役割を意識してたかなぁ… 情報の整理はみんなで合意形成しながら進めて、それをどういう言葉に落とし込むかのフィニッシュワークは任せてもらいました。もちろん、私も私なりに意見は言いました。そこに抵抗を感じなかったのは、自身の課題感として「モノサシ」って大事だよねと思っていたことも大きいかも。
8chari:モノサシ…気になります。それはどういうことでしょう?
aguri:私がやっていた雑誌編集なら編集長ないしはアートディレクターが、広告のクリエイティブ制作の現場ならクリエイティブ・ディレクターが意思決定者なんですよね。アウトプットに対するロジックはもちろんあって、当然説明が必要な場面では言語化されるけれど、意思決定の履歴ってあまり残らない。属人的なもので、師弟関係から仕事を覚えるみたいなやつです。でも、デザインシステムは、こういった部分を再利用可能な状態に言語化して属人化させない。みんながデザインできるように、拠り所となるモノサシを用意するんですね。これはスマートな取り組みだなと思いました。
8chari:なるほど。確かに、暗黙知になりがちな考え方や判断が言語化されていることで、途中からジョインしたメンバーも判断しやすかったり、迷ったときの拠り所になったりしていると思います。
使っている人に定着するのが「真っ当なデザインシステム」
8chari:少し話が戻りますが、uさんが言っていた「真っ当なデザインシステム」という言葉が気になっていて。uさんの考える「真っ当なデザインシステム」って、どんなものでしょう?
u:使った人が、デザインシステムを見なくてもデザインを自走できるようになるものが理想ですね。
8chari:デザイナーでなくてもデザインできる状態にする、ということでしょうか?
u:はい、私は“デザイン”の役割の1つに「再現性」があると思っています。デザインって、クリエイティブな人しか持っていない独自の感性をイメージされがちです。でも、それだと属人的で、デザイナー以外もデザインできるようになる再現性とは程遠い。
8chari:そうですね。いわゆるセンスのある選ばれた人しかできない、閉じられた世界をイメージしてしまいます。
u:前職まで私はエンジニアだったんですが、デザインとエンジニアリングを分断していては良いモノやサービスは作れないと常々考えていました。デザインはデザイナーだけが担うものではなく、組織全体で取り組んでいくものと考えています。どのようにあるべきかを考えて意思決定する過程は、すべて「デザイン」なんです。
8chari:SmartHR Design Systemのデザイン原則でも「デザインは、デザイナーだけのものとは限りません」と明文化されていますね。
u:残念ながら、SmartHRもデザインシステムを見なくてもデザインを自走できるようになる状態には辿り着けていません。必要な情報をデザインシステムに読みにくる必要があるという状態。そこから抜け出して、使った人に定着するには「なぜそうでないといけないのか」の思想を伝え続けることが大事だと思っています。
aguri:デザイン原則を作ったときに、それはすごく思いましたね。「校則みたいなルールじゃなくて思想、考え方を伝えるんだな」と。考え方を揃えないと再現性は高まらない。そして、考えるためには最低限インプットしておかないといけない前提知識があって、知識をもとに考えて設計する。そのスキルが揃っていると、意思決定が揃ってくると思います。
8chari:つい先日、ほかの社員から「SmartHR Design Systemは、OKやNGといった結果だけでなく、そこに至るまでの考え方や根拠まで載っているので納得できる」と言われたことを思い出しました。
u:再現性を生む仕組みを作って初めてシステムになると思うので、使っている人に定着するようにしていきたいですね。
これからも頼りにしているし、期待しているよ
8chari:ここまでお話を聞いてきて気になってきたんですが、2人って意見がぶつかったことってあるんですか?全然違うルートでSmartHRにたどり着いたけれど、大事な根っこの部分は最初から共通していて、人事評価機能の立ち上げとか一緒に働く機会も多く、息ぴったりという印象があって。
u:デザイン原則を作るときも、プロダクトを開発するときも、意見がぶつかったことはないかな。
aguri:確かにないね。あ、でも書籍の執筆では少しぶつかったかも…書籍に適した表現にするために、どう書くといいかをuさんに伝えたときがあって。最初の印象でも言ったとおり、uさんはとても率直な人なので(笑)
u:それ、全然わからないんだよな…(笑)
8chari:そもそも、uさんはぶつかったとは思っていないと(笑)。改めて聞きたいんですけど、aguriさんから見た今のuさんって、率直な人という以外だと、どんな印象ですか?
aguri:最もSmartHRのプロダクトデザイナーっぽい人だなぁと。売上への意識が高く、事業に貢献できるデザインを重視している。あと、全部を自分で抱えてやろうとするのではなく、任せるところは人に任せられるところもそう感じるポイントかも。
8chari:SmartHRのプロダクトデザイナーってデザインの表層的な部分ではなく、プロダクトの円滑な開発に責任を強く負っていますね。そんなuさんに、今後こういうところを頼りにしているなど、aguriさんからお伝えしたい期待ってありますか?
aguri:現状、SmartHR UIにコミットするエンジニアはいるけど、SmartHR Design Systemにコミットするエンジニアはまだいないんですよね。だから、デザインシステムに興味があるエンジニアを巻き込めたり、採用したりできるといいなって。あとは、私もやろうと思っているけど、UXライターがもっとUIに侵食できるように力添えしてもらえたら嬉しいな。
u:実は、前者については動きだしていて、4月にエンジニア向けイベントに登壇する予定があります。後者に関しては、プロダクトデザイングループは来る者拒まずだし、一緒にやっていきという気持ち!
8chari:uさんからaguriさんへの期待も聞きたいんですが、いかがですか?
u:aguriさんに対しては「もっと暴れたらいいのに」とずっと思っていますね。こうしたら良いというロールモデルが全然ないところなので切り拓いていってほしいし、aguriさんの考えをもっと発露していって、言葉まわりでお金を生み出せるといいなって。今やっているUIテキストやヘルプページに限定せず、「言葉」という仕事に閉じないで活躍してほしいなと思っています。
aguri:UIテキストやヘルプページ以外の言葉の部分でいうと、今年はプロダクトの紹介ページのコピーライティングはやるかも。入社以来、担当してきたプロダクト数はたぶん一番多いので、プロダクトを理解しているコピーライターとして頑張るよ!
u:それは楽しみ!
さいごに
考え方を揃えないと再現性は高まらない、再現性を生む仕組みを作って初めてシステムになる。今回のインタビューを通じて、私もデザインシステムを使っている人に定着する仕組みを作っていくぞと気持ちを新たにしました。
どんな人達がSmartHR Design Systemを作っているのか、uさんとaguriさんの人柄や思いが伝わっていたら嬉しいです。気になる方はぜひ書籍も手に取ってみてくださいね!