2025年1月より、SmartHRの新たな VP of Engineering に齋藤 諒一さんが就任します。
現 VP of Engineering の森住 卓矢さんからバトンが渡される形です。
本記事では、齋藤さんについて森住さんがあれやこれやと深堀りした様子をお届けします。
齋藤さんのこれまでのキャリアや経験、そして VP of Engineering として今後どんな開発組織をつくっていきたいかなどについてお話ししています。
はじめに
森住:現 VP of Engineering の森住です。この度、2024年末に VP of Engineering を退任し、2025年にSmartHRを退職することになりました。VP of Engineering の後任として齋藤さんを推薦させていただき、社内の手続きを経て齋藤さんの就任が決定したところです。今日は、齋藤さんがどんな人なのかをお伝えするとともに、SmartHRの開発組織のこれからについても話していけたらと思います。よろしくお願いします。
齋藤:2025年1月から VP of Engineering に就任する齋藤です。このインタビューが世に出るタイミングでは私はまだ VP ではないので、少し不思議な気持ちですね。今日はよろしくお願いします。
SmartHRに入社するまでの経歴
森住:早速ですが、齋藤さんの簡単な経歴をお話しいただけますか?
齋藤:はい、SmartHRに入社したのは2021年7月で3社目の会社になります。
最初に入社したのは受託開発の会社です。入社当時はウェブ系ではなく、デジタルカメラのバンドルアプリの開発を4年間ほど担当していました。途中で、BtoCのサービスを開発する部署に異動して、そこでコンシューマー向けのシステムを開発していましたね。最終的にはマネージャーとしてチームを抱え、お客さまと契約関連の交渉などもするようになりました。働いていく中で、受託開発の会社ではプロダクトのクオリティを上げることが必ずしも自社の売上にはつながらないと感じることが増えてきて、私個人としては「自分が作ったものの価値が会社の利益につながる仕事がしたい」という気持ちが強くなり、事業会社に転職することにしました。
そこで入社したのが、ライブ配信サービスを運営するエンタメ企業です。純粋にエンタメが好きでしたし、ライブ配信サービスは色々な技術を駆使して運営されているイメージだったので、挑戦しがいがある環境なんじゃないかと。実際、リアルタイムで流れるコメントの裏側の改善や配信時の遅延を削減するための開発、アクセス高騰に対する高負荷対策など、本当にいろんな経験をさせてもらいました。半分ほどはマネジメントでしたね。
森住:齋藤さんはなんというか「やります力」と言いますか、広くオーナーシップを持っていろんな仕事を引き受けていく姿勢がとても強い方だと思っています。そんな齋藤さんでも、これはできればやりたくないという仕事や実際に断った仕事はありますか?
齋藤:ないと思います。自分の仕事の先にある最終的なゴールに納得できていたら、基本的にはなんでもやろうというタイプです。前職では先ほどの話以外にも、ライブ配信者向けの説明会でアプリの使い方をレクチャーしたり、ライブ配信者を労う会に参加したり、サービス開発や開発組織のマネジメント以外のこともやっていました。思い返すと、本当になんでもやりましたね。
森住:さすがですね。そもそもエンジニアになったきっかけとかってあったんですか?
齋藤:他のことに比べて得意だったからですね。私は高等専門学校のロボット系の学部出身で、そこではプログラムも書くし、電気回路も作るし、ロボットを動かすために必要なことは一通り実践するんです。そのなかで、実際にプログラムを書いてどう動くか試していくプロセスが一番楽しくて、自分にはこれが向いていると思いました。
森住:高専出身だったんですね。SmartHRでも高専出身エンジニアは何人かいますが、齋藤さんはどうして高専に?
齋藤:とにかく早く就職したくて。中学生くらいの頃から早く独り立ちしたいと思いはじめて、どうしてそう思ったのかはわからないんですけど(笑)、そのためには早く働くしかない、なるべく早く社会に出られる道を探そうと思って高専に入学しました。
森住:すごい。ちゃんと考えてる。僕はずっと働きたくないと思ってましたけどね(笑) ちょっと話を戻しちゃうんですけど、エンタメ企業からSmartHRに転職したのはどうしてだったんですか? 結構毛色が違うかなとは思うんですが。
齋藤:まず転職を考えはじめたのは、自分が開発した機能の価値が売上につながる実感をもっと得たいと思うようになったからです。ライブ配信アプリや漫画アプリを使っている方はピンとくるかもしれませんが、ユーザーはアプリの機能にお金を払っているわけではなく、企画やコンテンツ、もしくは配信者にお金を払っているんですよね。開発者として、自分が作ったものの価値で売上に貢献していきたいと思うようになり転職を決意しました。BtoBの会社に絞って見ていくなかで、SmartHRはもっとも多くのユーザーに使っていただける可能性があるという点に惹かれました。全労働人口を対象にできるプロダクトはなかなかないと思います。
新規事業の立ち上げからVPoEのバトンを受け取るまで
森住:SmartHR入社時の配属はプラットフォーム事業でしたね。
齋藤:はい、プラットフォーム事業の立ち上げを担当する一人目のエンジニアとして入社しました。そこで作っていたのが、現在の「SmartHR Plus」ですね。本当に立ち上げフェーズで特に組織もなかったので、当時CTOだった芹澤さん(現CEO)の直下に配属されました。
そこからは怒涛の日々でしたね。入社してすぐに「通勤経路検索」という新機能の開発を任せてもらい、約半年ほどでリリースしました。その過程で、SmartHR本体の既存プロダクトについても理解を深めることができてよかったです。入社1年後の2022年7月にはプラットフォーム開発ユニットが誕生することになり、そのユニットのチーフ(プレイングマネージャー)になりました。さらに1年後の2023年7月にはプラットフォーム開発ユニットと、プロダクト基盤ユニット(SmartHRの横断基盤を担当する組織)を管掌するマネージャーになり、「SmartHR Plus」の開発だけでなく、スマートフォン向けアプリや従業員ポータルなどいろんなものを担当するようになって。SmartHRの主軸となっている労務領域とタレントマネジメント領域「以外」の領域を全体的に管掌するようになっていきました。
そして2024年1月に、SmartHR全社の組織体制変更に伴い、基盤開発本部のダイレクターになりました。今の管掌範囲は、プラットフォーム事業と従業員ポータル、プロダクト基盤、IdPなどです。
森住:マルチプロダクトを推進するなかで重要なものが揃っていますよね。プラットフォーム事業からどんどん管掌範囲が広がっていく様子をみても、齋藤さんの「やります力」が発揮されているなと感じますが、そういう姿勢は日頃から意識されているんですか?
齋藤:どんな仕事も誰かがやらないとだめじゃないですか。やろうと思えば誰でもできるけれど、そのタイミングでは自分しかできないような仕事って結構あると思うんですよね。そのときに、今は自分がやるのがよさそうだと判断したらやる、という感じですね。作業として自分が何をするかはあまり重視していなくて、その先で実現したいことに合意できてさえいれば自分がどういう立ち位置で何をやるかはあまり気にしていません。そういう意味でも、新しいことや自分がやったことがないことに取り組むことに抵抗はないですね。
森住:マネジメントの役割もチーフからマネージャー、ダイレクター、この先はVPとかなりのスピードで変化していますが、齋藤さんの組織への向き合い方に変化はありましたか?
齋藤:考える内容や向き合う課題の変化はもちろんありました。ただ振り返ると、どの役割を担っていたときもわりと目の前のことに集中してしまった反省があります。特にダイレクターという役割に就いてからは、もっと先の未来のことを考えるべきだったと思います。新規プロダクトを並行して高品質に作っていくために整えておくべき基盤や仕組み、未来の組織を見据えていち早く注力すべき採用ポジションなど、考えることの時間軸は変化していますね。
マルチプロダクト化を進めるなかで見えた課題
森住:プロダクトに対してはどうでしょう。進化を感じる点と、反対に課題を感じる点はどんなところですか?
齋藤:入社して最初の1、2年は、労務領域もタレントマネジメント領域も個々のプロダクトの完成度がどんどん上がっていると感じていました。ただ、マルチプロダクト化を進めるなかで「全然足りなくないか?」と思うことが圧倒的に増えました。そのギャップをスピード感を持って埋めていく必要がありますね。
森住:どんなギャップでしょうか?
齋藤:これまでは各プロダクトごとにユーザーの課題に対してその都度、解決策を出してきました。ただ今後は、ひとつの課題に対してひとつのプロダクトを提供するだけでは業務全体の効率化や最適化にはつながらず、本質的な課題を解決できないと考えています。業務全体を一連のプロセスで捉え、単体のプロダクトを磨き込むだけでなく、プロダクト同士がどう連携すべきなのかを考えていく必要がある。このフェーズになると、ユーザーも解を持っていません。ユーザー自身もわからないことに対して、最適な解決策を考えて提供していくことが求められます。そういう意味でも、今年の7月に SmartHRのバリュー が刷新され、「人が欲しいと思うものをつくろう」が「人が欲しいものを越えよう」に変わったことはすごくいい変化だと思いました。
森住:「人が欲しいものを越えよう」を体現していくために、他部署との連携を強化していくことも重要ですよね。今もある程度大きい組織になってはいますが、これから先もますます大きくなり、巻き込むステークホルダーが増えていきます。プロダクトにも組織にも影響力を発揮できる人は今以上に必要になりますね。
齋藤:組織としても、担当プロダクトの範囲を超えてチャレンジしていくことが求められます。越境力ですね。そういう力を組織としてももっと培っていきたいですし、得意とする方にはぜひジョインしていただきたいです。
「問題 vs 私たち」のスタンスでコトに向き合うことを大事にしたい
森住:今の組織のここは変えていきたい、という点はありますか?
齋藤:今の開発組織はスクラムを採用しているのですが、組織の拡大ペースが速いこともあってスクラムの習熟度に個々人でバラつきが出てきています。そのため、スクラム、より広い表現で言うとアジャイルな開発チームとしての習熟度が上がりづらくなってきていると感じています。マルチプロダクト化に向けて高速に仮説検証を進めていく必要がある状況下で、人材配置やイネイブルメントを含めた体制のブラッシュアップを通して、常にアジャイルな組織としての習熟度を高めていきたいと考えています。あとは、プロダクトの信頼性を高める活動にはもっとリソースを割いていきたいですね。将来的には専門家の採用を進め、新たに専門チームを設けるということも考えられると思います。
森住:なるほど。反対に変えずにやっていきたいことはありますか?
齋藤:何よりも「ユーザーに価値を届ける」ことを前提に置くのは、変えずにやっていきたいですね。そういった方針を開発組織に発信し続けることも大事だと思っていて。森住さんが毎年、プロダクトエンジニア向けの今期のスローガンを発信していたじゃないですか。スローガンそのものももちろん大事ですが、それ以上に「なぜ今期このスローガンなのか?」を丁寧に説明していたのが印象的で。あの説明があったから、理解度や納得度、浸透度も高かったと思うんです。同じようにできるわけではありませんが、変えずにやっていきたいことのひとつですね。
森住:2021年は「最短距離を行こう」というスローガンを掲げ、2022年は「顧客の価値で語ろう」、2023年が「境界を越えよう」、2024年はまた「顧客の価値で語ろう」への回帰、という流れでやっていましたね。
齋藤:今日話したことがスローガンに凝縮されていそうですね(笑)。
森住:ちなみに齋藤さん個人として、スローガンというか組織を率いていく上で大事にしたい考えとかってありますか?
齋藤:「問題 vs 私たち」みたいなスタンスは結構大事にしています。たとえば、よく言われる構造だと「ビジネス側 vs プロダクト側」や「新規プロダクト vs 既存プロダクト」といったものがありますよね。でも、そうではなくて、私たちはあくまで同じ課題に向き合っているチームであるという意識を忘れずにいたいなと思っています。率直に意見をぶつけ合うことはもちろん歓迎ですが、それはあくまで問題を解決するためのぶつかり合いです。SmartHRでは「チー丸(ちーまる:チーム一丸の略)」という言葉もよく使われます。一丸になるには、規模もずいぶん大きくなったし、それぞれが見ているものも違ってきて、なかなか難しい現実もあります。でも、同じ課題に向かって共に戦うことはできると思っていて、そこが自分のなかでは一番大事にしたいポイントですね。
森住:前回の全社キックオフで、SmartHRの新しいバリューは「早く、遠くに、共に行く」という上位概念のもとブラッシュアップしたという話もありましたね。規模的に様々なベクトルが組織内に共存している状態なので、それらをアラインさせつつ問題に向き合うというのは大事にしたい考えだなと感じました。
ユーザーへの価値提供と会社、メンバーの成長を同時に実現していく
森住:さて、そろそろ締めに向かっていこうと思うんですが……これからSmartHRという会社も開発組織も、ユーザーの期待を超えていくために、新しいことに挑戦し柔軟に変わっていく必要があると思います。齋藤さんに関しては、社内向けの後任発表でもお話ししましたが、強いコミット力と決断力、そして「やります力」が大きな強みです。プラットフォーム事業の立ち上げに始まり、横断基盤や新規事業、ここ1年ほどは新卒採用プロジェクトなど、広くオーナーシップを持ちやるとなったら絶対にやり切る、その力を信頼し期待しています。
齋藤:ありがとうございます。入社してから労務領域、タレントマネジメント領域に閉じない、新規の領域や横断的な領域を任せていただく経験が多かったので、その経験を活かして強いエンジニア組織をつくっていきたいと思います。組織づくりという点では、中途採用だけでなく2025年入社者から始まった新卒採用を強化していくことも重要ですし、入社後にSmartHRでどう成長していただくかも大事です。ユーザーへの価値提供と、会社の成長、メンバーの成長を同時に叶えていけるよう頑張ります。
齋藤さんとCEO芹澤さんとの対談記事も公開しております。
2024年10月23日に、SmartHRの技術戦略についてお話しするイベントを開催予定です。ぜひご参加ください!