2025年5月26日(月)に和田卓人さん(以後、t-wadaさん)をお招きし、社内講演会を開催しました。
本記事では、その講演会に至った経緯や講演会の内容、そしてそこからのアクションについて紹介します。
t-wadaさんのプロフィールは次のとおりです。
和田卓人 (わだ たくと) プログラマ、テスト駆動開発者
学生時代にソフトウェア工学を学び、オブジェクト指向分析/設計に傾倒。執筆活動や講演、ハンズオンイベントなどを通じてテスト駆動開発を広めようと努力している。
『プログラマが知るべき97のこと』(オライリージャパン、2010)監修。『テスト駆動開発』(オーム社、2017)翻訳。『事業をエンジニアリングする技術者たち』(ラムダノート、2022)編者。『SQLアンチパターン
第2版』(オライリージャパン、2025)監訳。テストライブラリ power-assert-js 作者。
X(Twitter): t_wada GitHub: twada Bluesky: twada
開催のきっかけ
昨年(2024年)12月に、プロダクトエンジニア(PdE)向けにテスト周りのアンケートを実施しました。
このアンケートの詳細は割愛しますが、要点をざっくりまとめると次のようになります。
- 自動テストの有用性については多くの人が感じており、実装もしている
- プロダクトコード、テストコードの認知コストが高くなっており、それによっての課題が出ている
- 扱っているプロダクトによって差はある
- テスト設計に悩んでいるケースが一定ある
私たち品質保証部がこれらについてアプローチを進めていくのは当然ですが、内部だけでなく外部の方からの有益な情報も重要だと考えました。
上記の結果をふまえ、この分野における第一人者であるt-wadaさんに「以前登壇されていた【開発者生産性の観点から考える自動テスト】について講演いただけないか」とお願いすることにしました。
開催形式
講演は次のような形で開催しました。
より多くの方が参加できるようにハイブリッド形式で実施し、当日盛り上がれるようにSlackチャンネルも用意しました。
- 開催方法:オフライン・オンラインのハイブリッド
- 参加出来なかった方向けに録画も実施
- メイン参加者:PdE、QAエンジニア(QAE)
- 開催については全社告知
- 当日のワイワイ場所:イベント専用のSlackチャンネルを用意
- イベント日だけで1200以上の発言がありました
- 当日のスケジュール
- 講演
- 質疑応答
- 懇談会
講演内容
公開済みの「開発者生産性の観点から考える自動テスト」の資料をベースに、昨今のAI動向も加えた最新版の内容でご講演いただきました。
今回の配信は資料を画面共有するのではなく、会場の様子を映す形式だったため、投影資料が映像では見づらくなっていました。そのため、オンライン参加者が手元で確認できるよう、資料を事前に共有しました。
追加してくださった資料についてはt-wadaさんの次のツイートが参考になります。
先日の講演の最新差分です(『技術選定の審美眼 2025年版』を一部マージ) https://t.co/jeYrmKg8o2 pic.twitter.com/o4FWb4QMCh
— Takuto Wada (@t_wada) 2025年5月29日
講演の光景
t-wadaさんはスライドをもとにお話しされつつ、合間にはSlackチャンネルの投稿も見て、そこでの発言にリアルタイムに反応しながら進めてくださいました。
講演時間は1時間を予定していましたが、Slackのメッセージへの反応もあり、1時間半近く話していただきました。1時間半と聞くと長く感じるかもしれませんが、Slackでは会話が止まるタイミングはほぼなく、長さを感じない面白さでした。
質疑応答
講演後は休憩を挟み、事前に集めていた質問および当日出てきた質問をピックアップして、その場でt-wadaさんに質問をさせてもらいました。
その質問の中からいくつかピックアップしてここでも紹介したいと思います。
質問「適切なテストと過剰なテストを見極める方法はありますか?」
「t-wadaさんの回答(要約)」
自動テストを増やすのは簡単で、不安によって増えていきます。
不安だからテストサイズをまたいで実装してしまい、過剰なテストになる。 過剰なテストという意味では、テストサイズをまたいで実装してしまっているのは不安からどうしても起きる。
その中で、論理的な重複を機械的に探すのは難しく、人間のレビューを大事にしたほうがよい。
テストコードのレビューだとどうしても詳細なところに目がいってしまう。 なので、RSpecの-fdオプションをつかい実行結果のツリーをもとに、論理的な重複とか漏れがないかというのをレビューするのがよい。
あとは同時に失敗するテストがどのくらいあるかというのも、論理的に重複しているという可能性において発見できるので、そういったものに敏感になるのがよい。
テストピラミッドの下のほうが網羅性が高いため、「ど正常」といわれるようなものは各サイズで重複するが、そういったものは気にしなくてもよい。
質問「AIによって、TDDのやり方自体は変わりますか?またTDD自体はより利用が加速されると思いますか?」
「t-wadaさんの回答(要約)」
ここでいうTDDがどれをさすかという前提があるけど、それは一旦おいておきます。
テスト駆動の定義については次のページを参照してください。
AIを活用してのTDDについては研究しているところです。 今から話すのは時限的なもので「今のAI」の話で、今後どうなっていくかは分からないです。
自動テストを活用した開発というと、より利用が加速されるでしょう。
テストを書いて実行してというサイクルは、人間に対してのフィードバックとしてはよかった。 それがテストを書いて実行するのがAIになってしまうと、人間へのフィードバックが失われてしまう。
すると人間へのフィードバックはいつになるのか?というと、もうちょっと前段階の設計自体をAIと相談しながらやっていく中で、人間へのフィードバックを得るのではないかと考えている。
TDDのいいところは汚くても動かして、あとでキレイにするところ。 前者の「汚くても早く動かして」はAIが得意としているが、今のAIだとそのまま続けると「キレイにする」ところであるリファクタリングで、ぐちゃっとなってしまう。
なので、やるべきことに応じてブランチをわけてAIの性格や指示も変える。
AIと議論した結果、合意したものをADR(Architecture Decision Record)などに落として、ADRからTODOリストに落とす。 TODOリストをもとに自動テストを実装し、毎回コミットするということをAIに指示していくことによって、トレーサビリティのある形にする。
AIはまだたくさんのファイルにまたがる変更は得意ではない。 なので、別の性格や指示を用意してgit worktreeを使って3並列とかでリファクタリングさせてみて、一番良いやつを採用するのがよいのではないかと思っている。
懇親会
質疑応答のあとはオフラインの参加者で懇親会をおこないました。 参加者はその場でt-wadaさんに直接質問したり、さまざまなお話を伺うことができました。
昨今のAI周りの進化によって「ソフトウェア開発がどのように変わっていくのか」「今後どうなっていくのか」というところは皆さん興味が尽きないところだったように感じます。
参加者からの感想
話を聞いて終わりにするのではなく、次に活かすことが重要です。
イベント終了後に、参加してくれた皆さんにアンケートを実施しました。
- 講演内容の満足度:約98%が「満足」と回答
- 講演内容を業務に活かせそうか:約98%が「活かせそう」と回答
このように、多くの参加者から高い評価をいただきました。 また、「最新の話を直接聞ける貴重な機会だった」といった声も多く寄せられ、有意義な時間だったと感じていただけたようです。
特に「テストレイヤー」や「AI活用」といったテーマについて、ちょうど考え始めていたチームも多く、タイミングとして非常に良い時期での開催となりました。
その中で、イベント後に「登壇で話されてた内容を活かしてやってみよう」という流れが早くもいくつか生まれています。
今後についてのアクション
こういった動きだけでなく、「品質保証部」としてプッシュすることも重要なので、以下を進めていく予定です。
- QAE x PdEで『Googleのソフトウェアエンジニアリング』のテストの章を読む会の開催
- アンケート結果をもとにした「施策」の検討と推進
前者は、講演の中で「テストサイズ」を含めた話の中で出てきた本です。 分厚い本ではありますが、テストに関連する章をピックアップし、QAEとPdE合同で会を進めていく予定です。 これによって、「テスト」に対してどう向き合っていけるかについて、より考えていければと思っています。
後者は、「業務に活かすためにはなにが追加で必要か」をアンケートで聞いています。 その内容をもとに、どういったことができるのかを検討し進めていく予定です。
弊社は1月が期のはじまりで、6月が期末です。
次の期に向けた「ミッション」を考えるうえでも今回のイベントは活きていきそうだと感じています。
まとめ
第一人者からの講演および質疑応答から得たものは、PdEのみなさんだけでなく、品質保証部のメンバーとしても次へとつながる刺激となりました。
ここからいろいろな施策を進めていくことで、より「あるべき姿」へと向かっていけるように品質保証部がリードしていければと思っています。
また、こういったイベントは定期的に今後もおこなっていくことで「外」と「内」の力で、「あるべき姿」へと向けた螺旋階段をのぼっていければと思います。
そんなわたしたちと一緒に「内」の力をより強化するメンバーを強く募集しています。
興味が少しでも湧いた方は是非とも次から応募していただけると嬉しいです。