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プロダクトエンジニア Acting Manager 体験記 —— 3ヶ月間のActionと学び

現在、労務プロダクト本部のマネージャーを務めている yuzuruです。 SmartHRにおける、前例の少ないActing Managerとしての3ヶ月の体験記を共有します。

Acting Managerとは?

SmartHRでは、2024年7月より、Acting(代理)制度が導入されました。 この制度は、事業・組織の急成長に伴うマネジメント層の強化を目的とし、外部採用をより適切に活用するために設けられました。具体的には、外部からいきなり正式な役職に就く「パラシュート人事」に伴うリスクを軽減するため、正式任命までの準備期間として「Acting期間」を設けるものです。

Acting期間は、正式に役職へ任命されるまでの準備期間と位置づけられており、最長で1年間となります。既存社員と同様のマネジメント任命フローを経て、正式に役職に任命されます。

Acting制度を導入することによる主なメリットは、入社者と受け入れ部門側の双方でマネジメントに関する期待値の齟齬が生まれにくくなること、入社者が早期に期待されるレイヤーの意思決定を近くで見て早期活躍しやすくなること、そして入社者と受け入れ部署がお互いに正式任命に向けた十分な準備期間を持つことができるといったメリットがあります。

わたしが20年のエンジニア歴があることもあり、前々職の同僚からの誘いがきっかけで、2024年12月にSmartHRに入社しました。 労務プロダクトのActing Manager(部長代理)として、前任マネージャーから3つの労務プロダクト(文書配付、年末調整、届出書類)の管掌を引き継ぐことになりました。

この記事では、私が前例が少ないActing Managerとして、何を考え、何を感じ、どのように行動してきたのか、最初の約4ヶ月間のリアルな経験とそこから得た学びを共有したいと思います。これからマネージャーを目指す方、すでにマネージャーとして奮闘されている方にとって、少しでも参考になる部分があれば幸いです。

エンジニアリングマネージャーとしての軸の明文化

まずは、「自分はどんなことを軸にしているエンジニアリングマネージャーなのか」を皆さんにお伝えしたいと考えました。 私の「軸」を明確にすることで、皆さんが私の意思決定の背景や、 何を重視しているかを理解しやすくなり、信頼関係の構築と心理的安全性の担保に繋がると考えたからです。 そこで、私の「軸」を表すスローガンとして、「エンジニアとプロダクトを深く愛し、信頼性の高いエンジニアチームを創り続ける」という言葉を掲げました。 この言葉には、私が長年エンジニアやエンジニアリングマネージャーとして培ってきた想いや価値観が凝縮されています。 (ちなみに、「愛」という言葉は、公私ともにお世話になった前々職のCTOと一緒に仕事をしたことがきっかけで生まれました。)

具体的には、3つの軸を大切にしています。

チーム創りへの情熱

会社のビジョン実現に向けて、エンジニアが持つ可能性を最大限に引き出し、活性化させること。採用・育成・キャリア支援、納得感のある評価制度、そして何よりエンジニアがいきいきと働けるカルチャー醸成に力を注ぎます。

価値最大化へのコミットメント

安定したプロジェクト進行を実現し、チームが生み出すプロダクトの価値を最大化すること。そのために、プロジェクト運営の標準化やチームビルディング、アジャイルな開発プロセスの推進を支援します。

技術へのリスペクトとサポート

技術トレンドを理解しつつ、エンジニアの技術的な意思決定を尊重し、後押しすること。「何のための技術か」を常に問い続け、時にはエンジニアとしての勘も頼りにしながら、チームの技術的な挑戦を支えたいと考えています。

一番最初に取り組んだこと —— 「謙虚」・「尊敬」・「傾聴」の実践

理想を掲げるのは簡単ですが、実践は別物です。特に私の場合、20年というエンジニア経験が、良くも悪くも影響を与える可能性がありました。自分の発言が意図せずメンバーを萎縮させたり、思考停止に陥らせたり、「yuzuruさんの言うことが正解」という空気を作ってしまったりするリスクです。

そのような事象を避けるため、新任として最も大事にしたのが 「謙虚」 であること、そして 「尊敬」しながら「傾聴」 することでした。「自分はこの組織では一番の新人だ」という気持ちを忘れず、まずはメンバーや関係する方々の声に真摯に耳を傾けることから始めました。

具体的に取り組んだのは、大規模な1on1です。管掌するチームメンバーはもちろん、他領域のマネージャー、DirectorやChief、プロジェクトで関わる方々など、合計50〜60名の方々と1対1で話す機会を設けました。目的は、関係構築はもちろん、様々な視点から見た組織の現状や課題、期待を直接伺うことでした。

1on1を通じて見えてきたのは、個々のメンバーが抱える想いや、組織全体に共通する課題感でした。これらの1on1を通じたインプットを整理し、メンバー一人ひとりのプロファイルを作成するとともに、組織課題の共通項を見出していきました。上長のDirectorと密に連携を取り、誤った観点がないか、仮説にズレがないかという確認を常にしながら、抽出した課題と自身の経験・私のこれまでの経験や得意なこと(コンピテンシー)を照らし合わせ、Acting Managerとしての具体的なミッションを設定していきました。

管掌ユニットの引き継ぎ

管掌する各ユニットに対しては、より具体的なミッションを設定しました。まずはユニットを率いるチーフとの信頼関係をしっかりと築くこと。そして、彼らと共にユニットのOKR達成を支援し、ユニット全体のケイパビリティを引き上げていく(チーム力の底上げ)ことに貢献する、というものです。

そのために、各ユニットのスクラムイベントを高頻度で見学させてもらい、日々の活動の様子やユニットのやり方を肌で感じることから始めました。そこで見えてきた課題に対して、コンピテンシーで貢献できることはないかと考え、具体的なアクションに移していきました。

例えば、上半期のミッション設定においては、チーフはもちろん、メンバー一人ひとりのミッションをレビューしました。それぞれの考えや状況、キャリアの思考などを基に考え、一人ひとりが「自分・自分たちの目標だ」と納得できる状態を目指して、共にミッションを練り上げていきました。

こうした地道な対話と課題解決への取り組みを通じて、少しずつチームとの信頼関係を深めていけたと感じています。

労務ドメインのキャッチアップ

労務ドメインの知識は、いくつかのキャッチアップ方法を組み合わせることで、効率的に吸収しました。

オンライン学習プラットフォームの活用・デモ環境での操作

まず手始めに、SmartHRの学習プラットフォームを活用しました。(SmartHR Schoolという学習コンテンツがあります)

  • SmartHRの基本機能学習
    • SmartHRが提供する基本的な機能について、体系的に学ぶことができました。膨大なドキュメントや動画コンテンツを通じて学習することで、ユーザーの視点に立ってプロダクトを理解することができました
  • 主要な労務手続きの把握
    • 入社手続き、給与計算、年末調整など、主要な労務手続きがどのようにSmartHRで扱われるのかを実際に画面を操作しながら学習しました

プロダクト戦略や引き継ぎドキュメント徹底的な読み込み

2つ目は、プロダクトマネージャーが書いた戦略や前任のマネージャーが作成してくれたドキュメントを徹底的に読み込みました。

  • 労務ドメイン戦略
    • プロダクトの方向性や目指す姿、解決すべき課題などを深く理解できました。なぜその機能があるのか、今後どうしていくべきなのか、という「Why」の部分が明確にしていきました
  • 前任マネージャー作成のドキュメント
    • これまでの管掌ユニットやプロダクトの経緯、過去の意思決定、具体的な業務フロー、ユニットのミッション、課題などが詳細に記述されており、現状を素早く把握する上で非常に役立ちました

上司との毎日15分の1on1

最後に、一番効果的だと感じていたのは、上司との毎日15分の1on1でした。

毎日決まった時間に実施してもらったので、短時間での不明点解消・Next Actionを明確にすることが可能でした。 ドキュメントを読んでいて疑問に思ったこと、学習した内容で不明な点をすぐに質問できるため、理解を深めるスピードが格段に上がりました。 漠然とした疑問も、対話を通じて言語化され、解消されていきました。

開発生産性向上と将来への種まき

1on1やミッション設定、労務ドメインのキャッチアップと並行して、いくつかの具体的な取り組みにも着手しました。

一つは、Findy Team+ を用いたエンジニア組織の生産性可視化と向上への取り組みです。入社時から既存マネージャーが運用していた取り組みに参画しました。SmartHRでは、スクラムを取り入れているので、スプリントレトロスペクティブ(振り返りなど)に、定量的な開発実データに基づく振り返りを組み込むことを推進しました。その結果、ユニットがより効率的な改善サイクルを回す後押しができていると感じています。

また、SmartHRにとって初めてとなる新卒エンジニア研修にも関わっています。研修プログラムの策定や、受け入れ先となるユニットの調整など、将来のPdEのカルチャーを育むための土台作りの一端を担えていることに関して、大きなやりがいを感じています。 至らぬところがたくさんある中、PdE新卒0期生の皆様にも支えられており、今後の1期生、2期生の研修にも役立てそうな知見が蓄積されてきています。

Acting Managerから正式なマネージャーへ

こうした「謙虚」と「尊敬」、「傾聴」をベースにしたインプット重視の活動、そして並行して進めた具体的な取り組みが実を結び、Acting Managerとして着任してから約4ヶ月後の2025年4月に、正式にマネージャーとして任命されました。

正直、あっという間の4ヶ月でしたが、多くの対話や行動を通じてチームやメンバーへの理解が深まり、自分が貢献できる領域が明確になったと感じています。もちろん、マネージャーとしてはまだまだスタートラインに立ったばかりです。

今後は、管掌ユニットはもちろん、担当する労務プロダクト領域の組織運営にも関わりながら、これまで以上にPdE組織全体の成長とプロダクトの成功に貢献していきたいと考えています。掲げたスローガンを軸に、エンジニアとプロダクトへの愛を原動力として、信頼されるチーム創りに邁進していきます。

まとめ

  • 「謙虚」・「尊敬」・「傾聴」を軸に関係者と接すること
  • マネージャーの中長期的なミッションは、正解がないことが多い。 短期的視点にならないようにステークホルダーや関係者と壁打ちをしながら策定すること
  • 中長期的なミッション設定だけではなく、短期的に成果が出るミッションを並行して実行すること

新任マネージャーは、この3点を忘れずに活動していけば、自ずとまわりからの信頼を得ることができると思います。 新しいことだらけだと不安になりますが、軸をしっかり持つことを忘れずに、小さい成果から大きな成果につなげていきましょう。

SmartHRで、誰もが「その人らしく働ける社会」を共に創りませんか?

今後、マネジメント業務に当たる場合、自分のwillややりたいことを押し付けるのではなく、「謙虚」・「尊敬」・「傾聴」ということを一番に実践してほしいです。

もう一つ、マネジメントに興味がある方へのメッセージとして、マネージャーへの転身は大きなチャレンジです。しかし、技術への理解と現場へのリスペクトがあれば、エンジニアとしての経験は必ずマネジメントに活かせると信じています。寧ろ、マネジメントを体現できるという稀有な機会を活かして、自分自身の成長につなげてほしいです。

エンジニアとしてのキャリアの岐路に立っていたり、何をしたいか悩んでいたりするならば、まずは自分の軸やコンピテンシーを考え抜くことがとても大切だと思っています。 自分自身の振り返りやメタ認知をすることが次のステップへのヒントになると感じています。

SmartHRでは、一緒に働くエンジニアリングマネージャーを募集しております! 「well-working 労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会を作る。」というミッションの実現を一緒に体現していきましょう。

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