みなさんこんにちは。SmartHRのプロダクトマネージャー @ryopenguinです。
この記事ではプロダクトビジョンをどのように決め、活用しているか、私のチームの実践についてお伝えします。これからプロダクトビジョンを設定する方のヒントになれば幸いです。
なお、この記事は「KPIを追いかけていたらプロダクトビジョンにたどり着いた話」の続編にあたります。前編もご覧いただくとより理解が深まるかと思います。
プロダクトの状況
最初に「従業員サーベイ」の状況について簡単にご説明します。
「従業員サーベイ」は、従業員に対してアンケートを送付し、その結果とSmartHR内に蓄積された従業員情報をかけ合わせて分析できるプロダクトです。立ち上げ当初から急速に売り上げが成長していたのですが、休眠ユーザーが多いという課題がありました。
2021年は休眠ユーザー回復のためにさまざまな施策を実施しました。しかし短期的には数値が改善するものの、それが本当にユーザーの価値につながっているかはわかりませんでした。
試行錯誤をするなかで、「そもそもプロダクトの方向性を明文化できていないことこそが問題ではないか」という仮説を立てました。
休眠ユーザーという目先の課題に対処する前に、プロダクトが目指すゴールを定義し、そこに向かっているか検証しないと、正しい方向に進んでいるかどうか判断できないと考えたのです。
そこで2022年上期はリソースを大きく使い、プロダクトビジョンを設定することにしました。
そもそもプロダクトビジョンとは
動きだす前に、複数の資料を見てプロダクトビジョンとはどのようなものなのかを考えました。
プロダクトビジョンとは会社全体のビジョンに則した形で、プロダクトを通して対象となる業務や市場に対してどのような価値を提供し、何を実現するのかを簡潔にまとめたものです。
プロダクトビジョンによって会社のビジョンとプロダクトのつながりや、対象となるユーザーにとっての価値、そしてプロダクトのゴールを明文化できます。
またプロダクトやビジネスユニットが複数ある場合、プロダクトビジョンに階層構造を持たせると効果的なようです。会社全体のミッション、ビジネスユニットのビジョン、各プロダクトのビジョンを整合させるのです。
無知の知
実際にプロダクトビジョンを策定するつもりで、自分たちのプロダクトの状況を振り返ってみました。するとビジョン以前に、プロダクトの置かれた状況をきちんと言語化できないことに気づきました。
まず会社のビジョンはあるものの、「従業員サーベイ」が所属する人材マネジメントユニット全体のビジョンは当時決まっておらず、これから決めるというタイミングでした。
次に「対象となる業務や市場」をなすユーザーについて考えましたが、ユーザーが普段どのような業務を行い、プロダクトのどこを気に入っているのか答えられませんでした。また、ユーザーの課題についてチームで議論した際も、推測での発言が多くなっていました。
そして、SaaSならではの考慮ポイントも見つけました。営業活動を通して販売するSaaSの場合、セールスやカスタマーサクセス(以下CS)といった人的な接点もプロダクトと同じように重要なのです。人的な接点も含めてプロダクトといっていいのかもしれません。ところが当時のプロダクトチームは、セールスが何を考えて売り、CSがどう活用につなげているのかも把握できていませんでした。
ビジネスユニットのビジョン、ユーザーの状況、実際にユーザーにプロダクトを届けるセールスやCSの状況、いずれもわかっていませんでした。プロダクトを取り巻く状況をまったく理解しないでものを作っている状況といえます。私たちのプロダクトビジョン設定は「無知の知」から始まりました。
逃げずにわかるまで聞く、話す
何もわかっていないと自覚してからは、プロダクトビジョンを策定する上で必要な情報を愚直に調べていきました。
まずは、ユーザーについて理解することからはじめました。
プロダクトをよく使っているユーザーを主なユースケースごとに選び、インタビューしました。具体的には以下のようなことを質問しました。
- SmartHRの従業員サーベイを採用した理由
- サーベイを実施しようとした理由
- サーベイ実施前後で苦労したこと
これにより、ユースケースごとにユーザーはどこに課題を感じ、どこに価値を感じてくれているかがようやくわかりました。
次にセールスやCSに話を聞きました。SmartHRのセールスとCSはユーザーの規模や既存/新規契約向けでチームが分かれているので、偏りがないようにメンバーを選びました。
複数のユースケースを例に挙げ、どのようなユースケースだと訴求しやすいか、現状の課題と併せてヒアリングをしました。これによって、ユースケースごとの訴求しやすさ、活用してもらいやすさの違いを理解できました。また、普段あまりコミュニケーションが取れていなかったセールスやCSと意見交換ができたことも収穫でした。
そして人材マネジメントユニットのプロダクトビジョンの策定については、積極的に議論に関わり、自分のプロダクトに情報を持ち帰りました。同時に「従業員サーベイ」に全体のビジョン実現のためにどのような役割を担わせたいかもヒアリングしていきました。
数ヶ月に渡って各所にヒアリングを続け、ようやくプロダクトビジョン策定に必要な情報をそろえられました。
プロダクトビジョンの決め方
プロダクトビジョンを決めるステップでは、ステークホルダーに途中経過や思考過程を共有し続けました。
開発チームには新しいヒアリング結果を入手するたびに内容を説明し、「こういう方向で行こうと思っている」という思考過程を伝えました。例えばデイリースクラムでは毎日5分ほどPMの時間をもらい、その日得た学びや自分の考えをチームに話していました。毎日話すことで、PMとチームの間で情報のギャップが生まれづらくなったと思います。
セールスやCS、他プロダクトのPMにはヒアリングの際に自分の考えも併せて伝え、フィードバックをもらいました。
最終的にプロダクトビジョンの文言や資料は自分がたたきを作り、開発チームにレビューしてもらいましたが、方向性の認識はあまりずれていませんでした。
その後のステークホルダーへの発表でも、途中で意見をもらっていたからか根本的な異論は出ませんでした。
プロダクトビジョンは合議ではなく、誰かが取捨選択をした上で決めることが重要だと考えています。合議によって妥協的な意思決定がされ、どこを向いたビジョンなのかわからなくなるリスクがあるからです。
一方で、決めるまでの過程を十分に伝えると、ビジョンの浸透に役立つように思います。
むしろ過程をオープンにし、思考過程をステークホルダーに説明することは、プロダクトビジョンそのものよりも大事なのではないかとも感じています。
プロダクトビジョンは大きな成果物として捉えるより、少しずつ積み上げ、フィードバックをもらいながら適応させていくものと捉える方が適切なのではないでしょうか。
プロダクトビジョンをどう使うか
プロダクトビジョンを決めたタイミングで、North Star Metric(以下NSM)も設定しました。NSMの数値上昇をもって、ビジョンに近づいているか判断するためです。
また同時に、プロダクトビジョンから「チャレンジ」を決めました。これはプロダクトビジョン実現から逆算して、直近1年程度の期間で何をなし遂げるべきかを表現したものです。ビジョンだけだと抽象度が高いため、具体的な取り組みを決める際に有効な考え方だと思われます。チャレンジについては、What is Good Product Strategy?という記事を参考にしました。
チャレンジが達成できた場合、NSMはどのくらいの数値になっているかを推測し、数値目標も設定しました。
さらにチャレンジからOKRを決めて、半期のチーム目標にまで分割しました。長期的な目標、中長期の目標、短期の目標という形で目標を階層化したのです。これでチームが、短期的な自分たちの活動がどうプロダクトビジョンにひも付き、1年後にはどのような成果を出していればいいのか、具体的にイメージできるようになりました。
OKRは隔週で進捗を確認していますが、その場で毎回プロダクトビジョンも確認するようにしています。常にチームの活動がビジョンに貢献しているかを確認するためです。また、エンジニアが提案する技術的負債の解消についても、ビジョンの実現に寄与するかどうかを意識して優先順位をつけています。
プロダクトチームでは確実に、ビジョンが共通言語になりつつあります。
また、まだ道半ばではありますが、プロダクトビジョンを販売戦略にも活用する動きがあります。PMMが中心になって、プロダクトビジョン実現のために特に推したいユースケースを積極的にユーザーに伝えたり、そのようなユーザー事例コンテンツを増やしたりという活動につなげています。
成果の検証はこれからですが、すでに数値にも良い兆候が出始めています。
プロダクトビジョンによって、プロダクトに関わる意思決定が一枚岩になり、成功に向かっていけている実感があります。
最後に
ここまでお読みいただきありがとうございました。
今回、プロダクトビジョンを設定し活用するということを通して、以下の3点を学びました。これらは今後、別のプロダクトでプロダクトビジョンを設定する際にも役に立つと考えています。皆さまのプロダクトでもお役立ていただければ幸いです。
- まずは「無知の知」を知る。そもそもプロダクトビジョンを考えられるほどコンテキストを理解していないことがある。何がわかっていないかを明らかにして、愚直に潰していく。
- プロダクトビジョンは突然リリースせず、関係者を巻き込みながら過程をオープンにすると受け入れられやすい。ステークホルダーに意見を聞き、議論することがビジョンの浸透にもつながる。
- プロダクトビジョン実現のために特にクリティカルな要素を「チャレンジ」に設定し、動き始める。短期の目標はチャレンジからOKRを考える。そして短期目標の振り返りの際にビジョンを意識する機会を作ると、ビジョンと日々の行動のつながりが実感できる。
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