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エッジケースでも正しさを守るドメインエキスパートのお仕事と仕組み

はじめに

こんにちは。SmartHRでドメインエキスパートとして働いている和田(wanda)です。

この記事は「SmartHRのプロダクトマネージャー全員でブログ書く2024」への参加記事です。25人が持ち回りで毎週記事を投稿しています。

ドメインエキスパートはプロダクトマネジメント統括本部に属しているため、この企画に参加しています。

既にドメインエキスパートのチームメンバーが、ドメインエキスパートの魅力や役割などについて記事を執筆しています。 そこでこの記事では、ドメインエキスパートが、法律や行政通達で決められている部分の仕様の正しさをどうやって担保しているのかという点について、「育児休業給付金支給申請書」を事例に用いてご紹介していこうと思います!

「ドメインエキスパートはどんなことをしている?」については是非以下をご覧ください。

労務業務はなぜ難しいのか

SmartHRの事業ドメインの内、労務業務は非常に複雑な法律知識・ドメイン知識が求められます。また、従業員にも直接影響が出るため、間違えが許されない業務でもあります。

では、どれだけ難しい法律・ドメイン知識が必要なのかについてお伝え出来ればと思います。

難しさという点ではいくつか切り口があると思いますが、本記事では以下2点を説明します。

1.法律の多さ・難解さ

一つの業務に複数の法律、ドメイン知識が求められます。 例えば、SmartHRには「育児休業給付金支給申請書」を作成する機能がありますが、何種類の法律が関わっているかご紹介します。

①育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律

育児や介護を行う人を支援して、仕事と家庭を両立することを目的にした法律で、「育児休業」の根拠法律になります。

②雇用保険法

「育児休業」を取得した際の「育児休業給付金及び出生児休業給付金」の根拠法律になります。

③年齢計算ニ関スル法律

「育児休業」や「育児休業給付」は、年齢で期間が決まっているため、いつ何歳になるのか決めるにあたって必要な法律になります。

④民法140条(期間算定原則)

ある一定の期間を計算するために必要な法律です。

これに加え、政令や省令、行政通達(行政機関が法令の統一的解釈や事務取扱上の基準を示した文書)まで確認する必要があり、労務業務の難解さを生み出しています。

2.ユースケースの多さ

労務業務では常に同じ状態・状況での発生は基本なく、ケースバイケースが多く、ケースによって正しさが変わるというのが特徴的です。

例として、1.で挙げた「育児休業給付金支給申請書」をご紹介します。

①従業員の状況は多種多様

申請の対象となる従業員の状況によって、必要な申請書類、確認する事項、どのように申請するかが変動します。

②タイミングの難しさ

例として、2017年10月に育児休業給付が2歳まで延長が可能になりました。 このときに、2歳まで延長出来る対象者の判断をする必要がありました。このように、法律の改正などがあると、申請タイミングによっては考慮する事項が増えます。

③紙か電子か

「育児休業給付金支給申請書」は紙・電子に両方対応しており、それぞれ対応方法が異なる部分も存在します。

状態・状況・手段がそれぞれ業務に関わってくるという点が、更に労務業務の難解さを生み出しています。

正しさを担保するための課題

上記で記載した「育児休業給付金支給申請書」について、SmartHRではプロダクトで自動で申請期間を算出するようになっていますが、その”数字"は決して間違えてはいけない数字です。

そのため、ドメインエキスパートでは、各種法律や行政機関に問い合わせの上、チーム内で相談していますが、法律の難解さとユースケースの多さの課題を全てカバー出来ている訳ではありませんでした。

具体例として、「育児休業給付金支給申請書」の場合では以下のケースの仕様を確定する必要があります。

  • 2月29日に出産した場合の育児休業期間はいつまでになる?
  • 1歳6ヶ月の終了日が2月29日になる場合、育児休業給付の支給期間はいつまでになる?

上記はかなりエッジケースですが、プロダクトとしては想定して仕様を決める必要があります。

各種法律について行政機関に問い合わせはしているものの、エッジケースになると行政機関も対応したケースが少ないことから、「回答が難しい」ということもあり、仕様確定がかなり困難でした。

間違えないための「社労士レビュー」という仕組み

SmartHRでは、このような課題の解決方法として、専門の社労士との契約を行い、エッジケースや非常に難解な業務についてレビューをもらうことで正しさを担保しています。

また、社労士とはSlackでコミュニケーションを取ることで、スピーディーにレビューを頂いたり、相談したりすることが可能になっています。

仕様確定の流れ

「育児休業給付金支給申請書」についても、社労士からの助言によって仕様を確定し、ユーザーに自信を持ってお届け出来る状態になっています。

今回ご紹介した方法は一例であり、他にも正しさを担保するために複数の手段を用いて、エッジケースなどでも、SmartHRをご利用頂くことで正しさを担保できている状態を維持・実現しています。

今後やりたいこと

安全安心なプロダクトの実現

SmartHRをご利用頂くことで、正しさを担保でき、安心して業務を行える状態を目指したいと考えています。

安全面は、正しさの担保で実現が出来ていますが、安心面ではまだまだと感じています。

私の定義の”安心”は、「この設定を行うと何に影響が起き、このような結果になります」という「プロダクト動作時にどのような影響が起きるかが分かること」としています。

間違えが許されない、従業員に影響が出る業務だからこそ、何が起きるかについては理解しやすくしていきたいなと考えています。

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