はじめに
みなさん、こんにちは!SmartHRでドメインエキスパートとして働いているchankesです!
この記事は「SmartHRのプロダクトマネージャー全員でブログ書く2024」への参加記事です。25人が持ち回りで毎週記事を投稿しています。
ドメインエキスパートはプロダクトマネジメント統括本部に属していること、チームによってはスクラムのPO(プロダクトオーナー)の役割を担っていることからこの企画に参加しています!
ドメインエキスパートの概要は以下の記事をご参考にいただけると幸いです。
開発組織に所属するドメインエキスパート。事業領域の深い知識と開発者目線を併せ持つ専門家の役割とは。
本記事では、私が担当する「届出書類アプリ」において重要な法律や制度改正のキャッチアップ方法について紹介していきます。
※「届出書類アプリ」は、行政手続きの書類作成から電子申請を複数名分まとめてできる無料オプション機能です。
届出書類アプリの苦悩
SmartHRの事業ドメイン、とくに労務領域においては、法律や制度を正確にそしてタイムリーにプロダクトに反映することが求められます。 その中でも、届出書類アプリが解決する社会保険に関連する分野はとくに変化が激しいです。
その背景にあるのは以下3点であると考えます。
- 1.社会保険と言っても、労働基準法・雇用保険法・健康保険法など、関連する法律が広い - 2.法改正を伴わない制度変更も頻繁に発生する(書類フォーマットの変更など) - 3.e-Govやマイナポータルなど電子申請のプラットフォーム自体の変更にも影響を受ける
また、変化の”頻度”が多いことだけでなく、”急な変化”や”大きな変化”に伴う課題もしばしば発生します。
例えば、「来月から書類のフォーマットが変わります!」と告知があり、十分な対応期間を確保できずにリリースが遅れてしまう。
例えば、e-GovのAPIが刷新され、大きな改修が必要になる。などなど。
このような事情から、届出書類アプリは外部からの影響を強く受け、計画(ロードマップやOKR)をコントロールしにくいプロダクトと言えます。
苦悩を軽減するキャッチアップ方法
そんなプロダクトを少しでも円滑に回すためには、正確で少しでも早い情報取得をしていくことが重要です。
私たちは以下の方法で法律・制度改正、プラットフォームの仕様変更をキャッチアップしています。
1. 日次/週次で法改正キャッチアップ
日次のチェックでは、e-Govや厚労省のウェブサイトを確認しています。
これは、ドメインエキスパートのメンバーで週次で持ち回りで確認しています。
日次で確認するのは、年金事務所の運用変更や、e-Govやマイナポータルなどのメンテナンス情報など、法改正以外の情報がメインになります。
法改正については「施行日」が決められており、プロダクト開発の対応期間は十分に設けられることがほとんどなので、コスパの観点から日次チェックの対象としていません。
週次のチェックでは、以下の信頼できる民間サイトを確認しています。
これは、毎週金曜日に複数人で同期的にチェックしています。
参加メンバーはドメインエキスパートだけでなく、社内の労務担当者や、ユーザーからの問い合わせ対応をしているチャットサポートメンバーと一緒に「この改正は難しそうだ」「社内の運用にも反映させないとね〜」などと意見を交わしながらワイワイとキャッチアップしています。
確認している民間サイトは一次情報のリンクを必ず掲載してくれているため、信頼性がとても高いです。
このように日次/週次のチェック作業を通して、漏れなく素早く情報取得しています。
※法改正キャッチアップの営みは、他のプロダクト領域も併せて実施しているため、国税庁などのサイトも確認の対象としています。
2. 社シスという団体の活動を通した、定期的な行政(デジタル庁、厚生労働省)とのコミュニケーション
SmartHRは 社会保険システム連絡協議会 という団体に加入しています。
社会保険システム連絡協議会(以下、社シス)は、主な目的を「電子申請の促進」とし、行政(主に厚生労働省・デジタル庁)とのやりとりを含む活動をしています。
その活動の中でも、以下の2つは届出書類アプリの開発にあたってとても重宝しています。
①Code for e-Gov
開催頻度は2ヶ月に1回程度、主にe-Gov関連の大きなトピックについてデジタル庁・電子申請ベンダで議論しています。
※社シスに加入している電子申請ベンダだけでなく非加入のベンダも参加しています。
※トピックによっては、厚生労働省にも参加いただいております。
参考: デジタル庁と社会保険システム連絡協議会ら、官民で「e-Gov」の新APIへの対応課題を議論|EnterpriseZine(エンタープライズジン)
②厚労省との意見交換会
開催頻度は半年に1回程度、厚生労働省の各局(労働基準局・安定局・年金局など、社会保険関連の電子申請に深く関連する方)と社シス会員で議論しています。
Code for e-Govは主にe-Govに関する課題解決について議論していますが、本会議体では直近半年〜1年で施行される法改正について議論されます。
法改正自体は決まっているが、まだ細かな運用までは決まっていない段階で、開示可能な情報を共有いただき、それに対するベンダの意見を収集する場として双方にとって有益な場となっています。
このように社シスの活動を通して、社会保険の電子申請に関連する重要ステークホルダーと定期的な接点を持ち、精度と品質の高い情報をキャッチアップしています。
直近3年間で変わったこと
上述したキャッチアップ方法を運用していて、この3年間で大きく変わったことが2点あります。
1. エンドユーザーに影響を及ぼすトラブルが減少した
以前は今より精度高く各種情報のキャッチアップができていなかったため、エンドユーザーの業務に支障を与えてしまうケースも稀に存在していました。 場合によっては、エンドユーザーから「電子申請できない!」と指摘されて初めて気づくこともありましたが、現状はほとんどないと言えます。
課題解決には上述した2つの方法のどちらも貢献していますが、やはりデジタル庁・厚生労働省と接点を持てるようになったことの影響が大きいように感じます。
官民の情報共有の営みは、電子申請ベンダ(サービス提供者)のためだけでなく、エンドユーザーである一般事業者の労務担当者・社会保険労務士にとっても非常に有益なものになっていると思います。
2. 問題があるときに、フィードバックできるルートが作られた
官民の情報共有が円滑になった状況ではありますが、それでもベンダの対応期間が考慮されていない機能リリース予告や、リリース後の事後報告の形で仕様変更が共有されることもゼロではありません。
以前までは、そんな状況ではベンダは涙を飲むしかないことが多かったのですが、最近は双方向で意見を交わせる場が設けられています。スケジュールに余裕のある事前共有をお願いし、実際にその多くは改善の傾向にあるように伺えます。
今後チャレンジしていきたいこと
大きく2つあります。
一つは、行政側の法律・運用や仕様変更にあたってのカウンターパートになることです。(これは、SmartHRがというよりは社シスがそうなっていきたいと感じていることです。)
社会保険関連の電子申請に関連する官民の情報連携は、現状でも十分適正に実施できていると感じます。一方で、やはり決まったものの共有を受けるという構図はつくられており、ものによっては、もっと早い段階で意見を聞いてほしいなと感じることも少なくありません。もう一段、行政との関係性を強固にし、柔らかい状態の案から意見交換ができるような存在になりたいと考えます。そのためには今の関係を継続し、まずは足元で良い成果を出していくことが重要だと考えます。
もう一つは、届出書類アプリの開発チームを、法律や制度の要求に応えながらもプロダクト目標を達成できるチームにすることです。
上述の通り、法律や制度の影響を強く受けるプロダクトゆえに、正確で早い情報キャッチアップを意識しているところではあります。一方で、法律や制度の要求をこなすだけでは、ユーザーが本当に欲しいプロダクトは作れません。目標の変更に柔軟に対応できるチームになること、書類のフォーマット変更などの軽微な改正では目標を変更せずとも対応できる仕組みや体制を持つチームになることを目指していきたいと考えています。
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