みなさんこんにちは!SmartHRのプロダクトマネージャー@ryopenguinです。
この記事は「SmartHRのプロダクトマネージャー全員でブログ書く2024」への参加記事です。25人が持ち回りで毎週記事を投稿します。ぜひご覧ください!
今回は「1000人の会社で部門横断プロジェクトを最短で立ち上げるコツ」を取り上げます。
プロダクトマネージャーをしていると、さまざまな社内プロジェクトに関わることがあると思います。他部署とのコミュニケーション、要望管理などなど、プロダクト間で落穂になっている課題のプロジェクトを立ち上げ、解決を目指す…そんなイメージです。
会社の人数が少ないうちは「まずはやってみる」でいいかもしれませんが、役割や人数が増えるとプロジェクトを軌道に乗せる難易度が上がります。プロジェクトをうまく進行できないとリソースが無駄になるだけでなく、社内のステークホルダーからの信頼を失うリスクもあります。
私はSmartHRで、さまざまな新規プロジェクトに取り組んできました。失敗や悩みもありましたが、1000人規模の会社の複数部門で協力しながら、スピーディーにプロジェクトを進める方法が見えてきました。
背景:本記事で取り上げる事例:PLG導入
今回は具体例として、SmartHRでの「PLG導入」プロジェクトを取り上げます。まずはこのプロジェクトについて簡単に紹介します。
SmartHRは今まで、営業が対面でプロダクトを売り、CSが対面で導入を支援する「Sales Led Growth」で事業を行ってきました。しかし、マルチプロダクト化が進むと「Sales Led Growth」だけでは限界が見えてきました。セールスやCSからは機能のキャッチアップが難しくなってきたという声も聞きます。
そこでプロダクトを起点にユーザーの活用や販売を促進する「Product Led Growth(PLG)」の手法を取り入れることになりました。またPLGの推進役としてグロースPMというポジションを新設することも決まりました。
しかし、PLG導入といっても具体的に何をすればいいか解像度は低く、かつ関連しそうな施策をマーケティング部門やカスタマーサクセス部門がすでに実施しているという話も耳にしました。これらの部署はプロダクトサイドとの接点が少なく、整理に時間がかかりそうでした。
当初はグロースPMを新規採用し、立ち上げからお任せする予定でしたが、他部署と連携しながら新しい考え方を導入してもらうのは、新入社員には負荷が高すぎるように思われました。そこで前職でデジタルマーケティングの経験がある私が、グロースPMの立ち上げを担うことになりました。
新しいプロジェクトを始め、軌道に乗せるために
ここからは、新しいプロジェクトを始め、軌道に乗せるために実施すると良さそうなことを説明します。全体像を大まかに書くと以下の流れになります。
- 方針を決める
- 現状を正確に把握する
- 方針を明文化した上で、ステークホルダーと擦り合わせる
- 行動する
- 方針に沿った、最初の課題を設定する
- 全プロセス
- 自分の業務をとにかくオープンにする
それぞれの詳細を、「PLG導入」プロジェクトで具体的に実施したことを交えて紹介します。
方針を決める1:現状を正確に把握する
プロジェクト検討初期は、現状を正確に把握することに努めます。
どのようなプロジェクトでも、いきなり個別具体の施策に取り組むのは悪手と考えます。
大きくなってきた会社では大抵どこかの部署が似たようなことを検討、実施しているものです。考えなしに施策を実施し、「車輪の再発明」になってしまったらリソースが無駄になりますし、ある種の「ナワバリ争い」になってしまったら最悪です。
そこで、まずはインタビューやアンケートを通して社内の現状を調査することをおすすめします。さらに得られた一次情報をドキュメントや図にまとめ、ステークホルダーにレポートしていくと、自分の理解がどれくらい深まったかチェックでき、周囲からアドバイスももらえます。
事例:グロースPM任命当初
グロースPMになった当初、まず何から手をつければいいか、どのような基準で優先度を決めればいいかさっぱりわからない状況でした。他社事例を調べ「こういうことをしようかな」と考えても、どうやら他の部署がすでに近しいことに取り組んでいることがわかりました。さらに、取り組みは複数の部署で別々に行われており、全体像を把握している人はいませんでした。
そこでまずは「おそらく担当者であろう」と推測される方に声をかけ、1on1を設定しました。1on1した方にさらに別の担当者を紹介していただき、全体像が把握できるまで関係者インタビューを繰り返しました。
そして得られた学びを全体像がわかるように図に整理しました。図にすると、自分の理解度がどの程度かチェックできるし、関係者とも認識が揃っているか確認ができます。
今回は、各ユーザー接点でセールス、CS、マーケがどのように役割分担し、どのような手段で介入しているのかを整理しました。
最後に、この図に対してインタビューした方からレビューをもらい、認識が合っているか確認しました。
これで社内の現状は整理できたように思われました。
方針を決める2:方針を明文化した上で、各所と擦り合わせる
現状把握ができたら、次に課題仮説、そして課題仮説に対する解決策仮説(これが現時点のプロジェクトとしての方針になる)を明文化します。一次情報→課題仮説→ソリューション仮説のプロセスはプロダクト開発にも似ているなと思います。
社内プロジェクトで解決策を提案する場合、なるべく現状手付かずの課題を探索し、それを解決しにいくことが効果的だと考えます。その際、既存のオペレーションを過度に否定しないことをおすすめします。
「XX部署はこれを変えた方がいい!」と急に提案することは危険なのです。既存部門の業務範囲について提案するのは、前述した「車輪の再発明」リスクを上げます。そして本来は協力できる余地があるはずなのに、無用な軋轢を生んでしまう可能性があります。それぞれの部署ではすでにみんなベストを尽くしていることを前提にした方が、物事はうまく進むと思います。
事例:グロースPMのミッション策定
ここまでの情報で、現状何が課題なのか言語化することにしました。調査をまとめると以下の状況が明らかになってきました。
- プロダクトのアップセル、クロスセル、活用促進のほとんどは人的介入か、ヘルプページなどのコンテンツの提供による支援に留まっている
- 自分のPMとしての経験から、個々のプロダクトでアップセル/クロスセル/活用促進そのものを目的とした機能の優先度はあげにくい
個々のプロダクト開発チームはユーザーの業務の中でまだ解決できていない、粒度の大きな課題を解決するための機能開発を優先します。これらの課題にユーザーは目に見えて困っていますし、解決策の不確実性も小さいためです。既存機能の活用を促進したり、アップセルやクロスセルを促すための開発は、優先度を上げにくいのではと思われました。
自分のPM経験からそのように考えていたところ、他のPMと壁打ちしても同様の意見が得られました。
そこでグロースPMのミッションを以下に設定しました。
- ユーザーの自発的なプロダクトの購買および活用を促進できる、再現性のあるソリューションを見つけ、各プロダクトに実装する
このミッションであれば今までの組織でカバーできておらず、他部署の既存業務と棲み分けられると考えました。課題とミッションが整理できたタイミングで、他のPMやインタビューしたステークホルダーにレビューしてもらいました。いずれも良い反応がもらえ、ぜひ協力したいとも言ってもらえました。
行動する:方針に沿った、最初の課題を設定する
ここまでは方針の決め方について書いてきました。しかし、方針も最初は仮説にすぎません。方針にそって行動してみてはじめて学習は進むと考えています。この行動の仕方についてもコツがあるように思います。
方針が決まると最初の施策に取り掛かるわけですが、この最初の施策は小さくてもすぐに結果が出るもの(できればポジティブな結果が出そうなもの)を選ぶことをおすすめします。
多くの場合、ステークホルダーは新しいプロジェクトに期待すると同時に不安に思っています。最初の施策で何ヶ月もアウトプットが出ないとその不安はより大きくなり、プロジェクトに対して細かな報告を求めるなどの介入をせざるを得なくなります。ステークホルダーも意地悪をしようと思っているわけではなく、会社のリソースを正しく投資するため仕方なくそうするのです。
まず小さくアウトプットすることでステークホルダーの不安を減らし、徐々にチャレンジのサイズを大きくする提案をするのがいいかと思います。
事例:最初の施策
プロダクトで活用や販売を促進する機能開発をミッションにしましたが、全く事例のない中で機能を作るのはリスクが大きく、投資が大きくなりすぎると考えました。
そこで外部サービスを利用し、機能開発のいらないPLG施策を企画しました。これにより、最小限の投資で施策のプロセスやどのようなデータが取れるのかといった情報を学習できました。これでより大きな投資をしやすくなりますし、ステークホルダーも安心して背中を押してくれると考えています。
最終的な結果はこれからなので、まだ安心はできないのですが…!
全プロセスで:自分の業務をとにかくオープンにする
ここまで、社内の現状を把握し、方針を決め、最初の行動を起こすまでの流れを書いてきました。
加えて、全プロセスを通しておすすめしたいのは、自分の状況をとにかくオープンにすることです。
前述の通り、新しいプロジェクトは会社にとっては新しい投資です。投資を決めてくれたステークホルダーはその進捗に不安と期待を覚えています。そしてステークホルダーも正解を持っているわけではなく、投資を通して学習したいと考えているはずです。最初にプロジェクトを担った人間は、この学習を最大化する責任があると考えています。プロジェクトで得られた情報、成果物、作業内容を逐次オープンにすることがこの役に立ちます。
事例:WOLと週報
今回は専用のSlackチャンネルを作り、そこでプロジェクトの進行や考えたことを実況することにしました。いわゆる「Working out loud」です(巻末参考資料あり)。
するとチャンネルを見てくれているステークホルダーから反応があったり、そこから新たなアイデアに繋がるようになりました。加えて週報を書き、実施したことをまとめてアウトプットするようにもしています。これは自分の振り返りにもつながっています。
そして施策の企画など、大きな粒度のアウトプットは必ずドキュメントにし、必要であれば同期で時間を取ってステークホルダーに説明するようにしています。
作業ログや意思決定を都度残すことは、組織の学習を進め、将来入ってきてくれるであろうグロースPMの同僚のオンボーディングにも有用と考えています。
まとめ
ビジネス形態を問わず、絶えず成長を続けるためには新しいチャレンジ、プロジェクトが欠かせません。時には組織を横断した取り組みも必要になるでしょう。
さまざまな組織の取り組みをアラインして打ち手を考えるのは、成長企業のPMにとって必須のスキルになると思っています。私も道なかばですが、この記事が少しでも参考になれば幸いです。
新しいプロジェクトを立ち上げるコツ」の全体像を再掲します。
- 方針を決める
- 現状を正確に把握する
- 方針を明文化した上で、ステークホルダーと擦り合わせる
- 行動する
- 方針に沿った、最初の課題を設定する
- 全プロセス
- 自分の業務をとにかくオープンにする
最後に、CPOがとある社内ドキュメントに書いていた、大好きな一節を引用します。
SmartHRのようなHRTあふれる環境にいると忘れがちですが、リスペクトとは無条件に与えられるものではなく、実績により勝ち取るものです。
どんな仕事でもまずは信頼を勝ち取ることが大事だと思います。
リスペクト、勝ち取っていきましょう!
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この記事で参考にした、おすすめ資料
- 『ザ・会社改造』
- 戦略を検討する際は「現実直視、強烈な反省論」「問題を解決するための改革シナリオ、計画、戦略」「戦略に基づいたアクションプラン」というフレームで整理すべきという話が出てきます。
- この記事で取り上げたプロジェクトを進める際にも非常に参考にしました。
- 『解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法』
- 問題や解決策の解像度の上げ方、チェックの仕方がまとまった書籍です。
- 「図や文章にまとめて解像度をチェックする」というのはこの書籍でも論じられています。
- 『カニバリゼーション――企業の運命を決める「事業の共食い」への9つの対処法』
- 既存事業と新規事業が衝突するのはどのような時か、どう対処するかを論じた書籍です。
- プロジェクトのスコープを決める際に参考にしました。
- 「Working Out Loud 大声作業(しなさい)、チームメンバー同士でのトレーニング文化の醸成」
- スタディサプリのエンジニアの方が書いたWorking Out Loudについてのブログです。
- シンプルに作業をWOLすることの意義がまとまっていておすすめです。