こんにちは、プロダクトマネージャー(以下、PM)のadachiです。
SmartHRでは、年始に各部署のリーダーがその年の方針を発表することになっています。今回は私がPMグループの方針として書いた文章を、丸ごとそのまま公開したいと思います。
本文に入る前に、少しだけ補足をさせてください。
現在PMグループには13名のPMが所属しており、それぞれ担当するプロダクトの性質もフェーズも異なります。そのようなチームに向けたメッセージということで、やや抽象的かつ焦点が絞りきれていない内容になっております。(言い訳その1)
また、改めて読み返すとかなり基本的なことしか書いていないのですが、基本に立ち戻ってがんばろうぜ!という趣旨であることをご理解いただければと思います。(言い訳その2)
そして、あふれる思いを詰め込んだ結果、かなりの長文になってしまいました。シンプルさを美徳とするPMとしては汗顔の至りですが、社内文書ということでご容赦くださいませ。(言い訳その3)
それでは以下、本文です。
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これはなに
2022年、PMグループが大事にしていきたいことをしたためました。💌
基本的にはPM向けの内容ですが、PM以外の職種の方も読めるように、やや丁寧に説明している箇所があります。ご了承ください。
現状認識
まずは現在のPMグループを取り巻く状況を、簡単に確認しておきたいと思います。
- 人材マネジメント領域へ更に注力していくことになりました。各プロダクト単体のサクセスだけでなく、人マネ領域全体、またSmartHR全体でどのように魅力的なパッケージを作っていくか、という観点がますます重要になってきました。
- 競合との競争はより激しくなっています。プロダクトも開発チームも複雑化・巨大化していく一方で、価値提供のスピードはこれまで以上のものが求められています。
- プロダクトサイドの方針が「顧客の価値で語ろう」になりました。開発チームのメンバーひとりひとりが顧客の価値で語るためには、PMの積極的な働きかけが不可欠です。
以上のような状況のなか、PMグループにとっては 「ステークホルダーが多い複雑な状況において、いかにしてアジリティを高く保ったまま顧客価値を作り出していくか?」 が大きな課題になっているといえるでしょう。
もう少しポップに言い換えると 「いろんな人がいろんなこと言うし、考慮することも大盛りだけど、スピードも落とせない、そんな状況においてPMはどうしたらいいの?」 ということです。
今年のグループ方針は、各PMがこのような課題に取り組んでいく上で、思考の補助線になるようなものにしたい、と考えました。
PMグループ方針:大きく考え、小さく動き、ともに学ぶ
今回の方針は3つの要素で構成されています。
- 大きく考える
- 小さく動く
- ともに学ぶ
どれかひとつに絞ることも検討しましたが、この3つのバランスを適切に保ち、意識的にこれらのモードを使い分けることが必要だと考え、このような形に落ち着きました。
以下、3つの要素についてそれぞれ解説していきます。
1. 大きく考える
まずは大きく、広く考えましょう。たとえば
- 社内のさまざまな部署、職種、立場の人に意見を聞いてみる
- さまざまな規模、業種、使い方のユーザーに会ってみる
- 自分の担当プロダクトだけでなく、サービス全体の視点から考えてみる
- 目先の課題だけでなく、その業務の社会的・歴史的な背景まで深掘ってみる
- 半年や1年だけでなく、数年先くらいの大きな時間軸でも考えてみる
- 直接の競合だけでなく、異なる領域や海外のプロダクトも調査してみる
- 今の10倍、100倍のインパクトを出すにはなにが必要か?というスケールで考えてみる
- 現行のプロダクトや戦略など、社内で暗黙の前提になっていることを疑ってみる
といったように、多様な意見を集め、多様な視点から考えてみましょう。ときには無責任に風呂敷を広げ、ワクワクしながら未来を描いてみましょう。
戦略よりもビジョン
これまではわりと「ちゃんと戦略を考えよう」的なことを言ってきたのですが、最近「ビジョンのほうが大事じゃん」ということに気がつきました。ビジョンとは「目的地」であり、戦略とは「目的地への行き方」だからです。目的地が決まっていないのにルートの話をしても意味がありません。まずは目的地を定めましょう。
ビジョンを作るには、大きく考えることが欠かせません。目先の細かい課題や制約はいったん忘れて、プロダクトの未来についてチームで話し合いましょう。私たちの仕事には、ただソフトウェアを作る以上の意味があるのだと思い出せるように、自分の利でも相手の利でもなく、もっと大きなことのために団結できるように、共有できる言葉を見つけ出しましょう。
いきなり完璧なビジョンが作れなくても、仮で決めてみて、そこに向かって走ってみましょう。
答えよりも問い
半年前に自分が書いたドキュメントを読み返してみてください。考慮漏れ、事実誤認、飛躍した論理、滑り散らかしているネタなどがたくさん見つかるはずです。見つからないとしたら、あなたは成長できていない可能性があります。もしくは伝説のPMです。
伝説のPMではない私たちが、個人の力だけで最適解を導き出すのは不可能です。この事実を、改めて確認しましょう。PMがすべきなのは、答えを出すことではなく、良き問いを設定することです。問うことによって多様な知見を求め、チームの力を結集しましょう。心理的安全性を作り出し、誰もが本音を語れるカルチャーを育てましょう。
去年のPMグループの方針は「WhatだけでなくWhyを語れるPMに」でしたが、Whyを語るというのは、答えではなく問いを示すことに他なりません。
2. 小さく動く
大きく考え、風呂敷を広げられるだけ広げたら、次はやることを大胆に、徹底的に、ただし納得感のあるやり方で削りましょう。フォーカスを明確に言語化しましょう。
私たちは、今まで誰も見たことがないものを作っています。不確実性がとても高いので、計画通りにものごとが進むということは、基本的にありません。小さな実験を積み重ねながら、細かく軌道修正していくことがどうしても必要です。
大きな不確実性を前にしても、立ち止まらないことが大切です。100%の確証が得られることはありません。適切なタイミングで調査や議論を切り上げ、手元にある情報で意思決定し、とにかく動き続けましょう。その必要性を、チームに繰り返し伝えていきましょう。
決定的な失敗というのは、取り返しがつかない失敗のことです。なにが取り返しのつくことで、なにがそうではないのか、チームで話し合いましょう。取り返しがつくと判断できたものについては、積極的にリスクをとって実験しましょう。
ネガティブ・ケイパビリティ
ネガティブ・ケイパビリティという概念があります。ケイパビリティは「何かを成し遂げる能力」のことですが、ネガティブ・ケイパビリティはその逆、つまり「成し遂げない能力」あるいは「性急に答えや結果を求めずに、不確実さのなかで耐える能力」のことです。
現時点ではわからないことを、わからないと言えること。今考えても仕方のないことや、決めなくて良いことをいったん横に置いておけること。それは能力が不足しているのではなく、むしろ別の能力なのだと考えてみましょう。
やらないことを決める
小さく動くということは、多くのことに対してNoを言い続けることでもあります。「明らかにやらなくていいこと」をやめるのは簡単ですが、難しいのは、無数に出てくる「やったほうがいいこと」のなかから、「本当に今やるべきこと」を選び取ることです。
やらないことを決めるために、まずはプロダクトの優先順位をしっかりと定めましょう。OKRはチームのフォーカスについて合意形成するための優れたフレームワークなので、プロダクトごとに設定することを強くお勧めします。
また、ときどき立ち止まって「この時間の使い方は顧客の価値と関係があるか?」と問いかけてみるのも良いでしょう。私たちにとって最も希少な資源は、私たち自身の時間です。顧客の価値のために、時間を使いましょう。
3. ともに学ぶ
PMもプロダクトも増えるなかで「横連携大事だよね」という意識は徐々に浸透してきたと思いますが、横連携という言葉は「必要なときにお互い調整しようぜ」というイメージが強く、それだけでは足りないのではないか、と考えています。
グループとチームの違いは、グループが単なる人の集まりであるのに対し、メンバーが相互に作用しながら全体として機能する集団がチームです。PMグループがチームになる(ややこしいですね)ために、今年は「ともに学ぶ」ということに力を入れていきたいと思います。
私たちは2種類のものを作っている
私たちはプロダクト開発のプロセスを通じて、2種類のものを作っています。ひとつは言わずもがな「顧客の価値」であり、もうひとつは「改善されたチーム」です。
仮説検証のサイクルを回すたびにチームの知識やプロセスがアップデートされ、次のサイクルに活かされる。これを繰り返すことでチームは強くなり、より大きな価値を、より短い時間で生み出せるようになります。
知見の共有が競争力を高める
重要なのは、この学習サイクルをチームの中だけで閉じるのではなく、そこで得た知見を会社全体でシェアしていくことです。一般的に組織が大きくなると動きは遅くなるといわれますが、学習に関してはむしろ規模が有利に働きます。複数のチームが独自に学習しながら、その成果を互いに共有できれば、単独のチームで動くよりも遥かに速いスピードで、組織力を上げていけるはずです。
自分たちがなにを知っていて、なにを知らないのかを意識しましょう。常に学習の機会を求め、学んだことは積極的に発信しましょう。他チームにレビューを求め、求められなくても相手の参考になりそうなことは伝えましょう。現場でしか得られない情報を手に入れ、経営にフィードバックしましょう。
私たち人類が繁栄してきたのは、個としての能力が優れていたからではなく、他の種よりも社会性が高く、情報を積極的に共有してきたからだといわれています。ホモ・サピエンスとしての自覚を持ち、ともに学んでいきましょう。
まとめ
- 私たちはプロダクト開発の活動を通して「顧客価値」と「組織力」という2つのものを生み出しています。
- ステークホルダーが増え、より複雑化した状況で顧客価値を作っていくためには「大きく考え、小さく動く」ことが求められます。
- そこで学んだことを他のチームにも伝え、会社全体で学習していくことが、競争力を高めることに直結します。
この方針自体も、答えではなくひとつの問いです。大きく考え、小さく動き、ともに学ぶために、具体的にどんなアクションがとれるか、みんなで議論しながら考えていきましょう。 💌
(本文ここまで)
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