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急成長組織にPdMはどう向き合う?「納得感」を保つプロダクトづくり

こんにちは!プロダクトマネージャー(PdM)の稲垣です。 本記事は、「SmartHRのPdM」連載企画の第6弾。SmartHR本体のPdMである岸さんのインタビュー記事をお届けします。 SmartHR PdMインタビューも回数を重ねてきたため、今回は岸さんの強みである「アジャイル組織」についてや、最近チームで取り組んでいるプロダクト戦略にフォーカスしてインタビューしました!

岸 祐太

2014年に新卒で通信キャリアに入社。基幹システムの開発に従事し、要件定義やプロジェクトマネジメントを行う。3年後、SoE領域のプロダクト開発を担う新しい組織の1人目のメンバーとして、組織の立ち上げを経験。組織形成・運営のかたわら、自らPdMとしてWebアプリケーションの企画・開発・運用保守を担う。その後、2020年3月にPdMとしてSmartHRに入社。SmartHR本体のプロダクトマネジメント業務に従事。開発組織全体へアジャイルやスクラムの普及も行う。

前職で任された、アジャイル組織への変革

稲垣:岸さんは、SmartHRが2社目なんですよね。

岸:はい、新卒で通信キャリアに入社して、約6年在籍し、SmartHRは2社目です。前職では開発部門に所属し、入社してからしばらくは主に基幹システムの要件定義やプロジェクトマネジメントをやっていました。

稲垣:開発部門の中で、チームはどのように分かれていたんですか?

岸:顧客管理システムや料金計算システムといったシステムごとに担当が分かれていました。ビジネス部門と一緒にサービスを企画し、システムの要件定義を行い、開発パートナーと一緒に開発・テストをし、リリースするという流れをひと通り担当していた感じです。

私が入社した当時、開発部門の業務は基幹システムの開発が多くを占めていたんですが、徐々にお客さまと直接接点を持つようなシステムの開発が増えていきました。スマートフォンの購入や契約を行うためのオンラインショップや、オンライン手続きサイトといったコンシューマ向けのプロダクトなどですね。

稲垣:コンシューマー向けのサービス開発が増えたことで、変化したことはありましたか?

岸:不確実性との向き合い方、開発の仕方が大きく変わりましたね。基幹システムの開発が多くを占めていたこともあって、当初はすべてウォーターフォール型で開発を行っていました。ウォーターフォール型は情報を正しく蓄積・管理する役割が大きい基幹システムには適したやり方なのですが、コンシューマ向けのサービスはお客さまの反応を見つつ仮説検証を繰り返しながらプロダクトを作る方法が適しているため、自然とアジャイル開発の導入に向けた動きが生まれていきました。不確実性が高いものを、時間をかけて仕様を検討し、手戻りを考慮せず実装するのは適していないよねと。

そこで、不確実性の高い領域に適したプロダクト開発をすべく、2017年にアジャイル開発組織を新しくつくることになり、その1人目として入ったんです。それがアジャイル開発との出会いでした。

稲垣:なるほど、岸さんと言えば「アジャイル推進室」のイメージでしたが、それが岸さんとアジャイルとの出会いなんですね。何かのアプリケーションを作ることよりも、前職の中でアジャイル開発を浸透させる土台づくりを主目的にしたチームをつくることになった、と。

岸:そうです。アジャイル開発という手法ありきで発足した組織ではありましたね。最初のお題は、開発部門が手掛けるプロダクトのうち、どの領域がアジャイル開発に適するのかを見極めることと、アジャイル開発の導入でした。その後、社内へアジャイル開発の普及であったり社内ルールの整備などをしつつ、私自身もプロダクトマネージャとしてプロダクト開発に携わっていました。この経験が、自分のキャリアの大きな転機になった気がします。

稲垣:もともとアジャイル開発の知識や興味があるから組織の立ち上げを任されたわけじゃなかったんですね。

岸:そうなんです。アジャイル開発組織を立ち上げることが決まってゼロからアジャイル開発やスクラム、LeSSを勉強したのですが、その経験が今のこの仕事に繋がっていると思います。

稲垣:アジャイル開発の勉強から、SmartHRへ道が繋がったんですね。

岸:そうですね。前職は会社の戦略上、エンジニアやデザイナーは自社で採用せず、開発パートナーと協力してプロダクトを開発をする方針だったんです。プロダクトマネージャとして働く中で、もっとスピード感や一体感のある環境でチャレンジしたい、プロダクト開発に関わるメンバーが社内にいるような会社で働きたい、と思うようになりました。

稲垣:その中で特にSmartHRを選んだ理由は何でしたか?

岸:転職の軸はSaaS、toBのPdMで探していました。その中で、面接で話していちばん「この人たちと一緒に働くの面白そうだな」と思ったのが大きいですね。すごい和やかでした。(笑)

稲垣:他にも複数社の選考を受けていましたよね。その中で変わった面接ってありましたか?

岸:PdMとしての実技試験があった企業があって、それは驚きましたね。実際にありそうなプロダクトとチームの取り巻く環境に関するいくつかの前提情報が与えられて、課題の優先順やプロダクトの設計を考えてみてくださいとか。

稲垣:それ、面白そうですね。スキルだけじゃなくて、考え方とか大事にしていることが見えてきそう。

岸:SmartHRでもやってみてもいいかもしれないですね!

稲垣:よさそう、考えてみましょう!

アジャイル推進室は「解散!」を目指しています

稲垣:やっぱり岸さんと言えば、「アジャイル推進室」の話は外せませんね?

岸:そう言いますけど、僕「チョットワカル」くらいで、もう今は理解度や実践度はみなさんと変わりません(笑)アジャイルな状態を実現するために何を実践するかに正解はなく、人や環境に合わせたやり方を模索していかなくてはいけません。前職で培った経験・学びが今もそのまま活かせるものではないんですよね。スクラムガイドで定義されてることも最小限で抽象度も高いですし。

稲垣:たしかに、社内でもチームごとの特徴や状況に合わせてけっこう違うやり方をしていますよね。

岸:なので、アジャイル推進室としては基本的な考え方を普及させて、アジャイルな文化が根付いてきたら、次はアジャイル推進室がなくてもいい状態を作りたいねと話しています。アジャイル推進室がなくても、お互いに課題を相談し合ったり、チームを横断して学びを共有しあえる状態を作りたいんです。最近、少しずつそういう状態に近づいてきてますよね。そのために、スクラムマスター養成講座を開いたりしていて。

稲垣:あれはめちゃくちゃ良い取り組みですね。スクラムマスター養成講座、開発メンバーはもうほぼ全員受け切った状態になってきましたよね?

岸:そうなんです、参加していない人が数えられる感じになってきました。(笑) 開催するのは大変ですが、僕らも学びになっています。この先はアジャイル推進室が講師をしなくても良い状態になるといいな、とも思いますね。

稲垣:スクラムマスターにチャレンジするメンバーも増えてきていますし、教える・伝えることで深まる理解もあるので、今度はスクラムマスターに渡しちゃうのも良いかもしれませんね。

岸:それ、ありですね。ぜひ次回はそうしてみたいなと思います。

チームメンバーからの声

自身の開発チームを超え、全社のスクラム開発プロセス改善にも貢献している岸さんですが、ここでチームメンバーからの声を聞いてみましょう。

「人が欲しいと思うものをつくろう」に約半数の票が集まりましたが、偏りが少なく様々な強みがあるという印象を持たれているようです。 具体的に、強みやエピソードを聞いてみました。

  • 一旦やってみようの精神、PdM として複雑な仕様を整理する能力がある。あと、爽やか。(エンジニア)

  • 振り返りやインセプションデッキをやった時のmiroの使い方がわかりやすく、すごいしっかりまとまっていてすごいなと思いました。ファシリも上手。(エンジニア)

  • ドキュメントがわかりやすすぎる。スクラムの知識も豊富なので、開発のことだけでなく、チーム開発の相談もできるのがとても心強いです。(エンジニア)

  • 他部署、お客様ヒアリングをしつつ、SmartHRとしてどうあるべきかということを考えてる印象がある。他部署の巻き込みや、エンジニアサイドのこうしたいみたいなことを、いい感じに聞いてくれる。(エンジニア)

  • 開発(技術的な話、アジャイルなどのプラクティス)とビジネスのどちらにも精通していて、開発だけだと意見が偏ってしまいそうな場面でも、視野を広げてくれるようなことをすっと言ってくれる。否定はせずに、自分の意見をちゃんと伝えてくれる。今までのキャリアでPdMの方と働いたことはなかったのですが、kissyさんがチームにいてくれるととても安心感がある。(QA)

  • 大きな開発アイテムを考える際に、ユーザーヒアリングや社内のディスカッション・データを分析して、なぜ作るべきか?どういう順番で作るべきか?に立ち返り、ロードマップ自体の見直しを提案し、会社の大きな意思決定に貢献していた。(PMM)

  • いろんな角度からの情報をひろいあげて分析して価値を創出している印象。(エンジニア)

  • 理想の理解と現状把握の能力と、そのちょうどいいバランスのプランCを見つける能力がすごいです。どこでのやりとりか忘れたのですが、あるPdMのネタにkissyさんがマジレスしていたのが、PdM陣の絶妙な空気感が伝わってきてよかったです。(エンジニア)

  • 思考が柔軟な人だなと思います。最初に決めたプランからプロダクトとお客さんの状態を見ながら開発をチューニングしていったり、新しい考えを取り入れてプランニングしていくので地でアジャイルができていてすごいなと思います。(デザイナー)

急成長組織で「納得感」を醸成し続ける難しさ

稲垣:もう少し、普段の仕事の仕方について深堀りさせてください。仕事の中で特に大切にしていることは何ですか?

岸:自分に対しても、チームのみんなに対しても、納得感を持って仕事ができることですね。

稲垣:うんうん。これ、今私も気になっているトピックなんですが、会社の人数・職種が急激に増加して複雑性が増してきた中で、全員がすべてに納得感を持つ難易度も急上昇していますよね。どう捉えていますか?

岸:そうなんですよね。私が入社した1年前と今でも状況が全然違っているし、意思決定する際に考えなきゃいけない変数もとても多くなったと思うんです。意思決定の過程と結果をできるだけ周りに共有していこう、と思っていても、どこかでは論理を超えて感覚で決めるしかない瞬間もあるし、説明しきれない部分もある。それにこの規模になると、オープンにしたからといって、全員にきちんと情報を届けられるわけではないですよね。この状況変化の中で、みんなに同じように納得感をもってもらうことの難しさはとても感じていますね。 少なくとも同じチームのメンバーにはできる限り納得感をもってもらえるように意識しています。

稲垣:「説明しきれない部分」って、どんなことでしょう?

岸:例えば「SmartHR本体」の中期的なプロダクト戦略とか。今の僕たちって、開発の優先順位を考えるときに考慮すべきことがすごいたくさんあるんですよね。新規クライアントの受注と既存クライアントのチャーン防止、小規模企業とエンタープライズ企業、競合劣後の解消と新規性のある機能の追加、とか。 それに、ユーザーの声や市場を眺めてふっと思い浮かぶアイディアってあったりするじゃないですか。そういう、前提情報ありきのアイディアをポンっと手渡しても、それはなかなか伝わらないですよね。

稲垣:PdMの中でなんとなく共有されているコンテキストを、どこまで他の職種にも伝えていくか、は目下悩ましいテーマですね。取り組み方やアプローチなど、何か変えたことはありますか?

岸:組織の変化だけが理由ではないですが、開発の進め方は変化してきています。1年前って、PdMがガッツリ調査や仕様検討を重ねて、それをエンジニアに共有するところまではある意味ウォーターフォール的で、実装プロセスだけをスクラムでやっていたと思うんです。それが「そもそもこれってどうして作る必要があるんだっけ?」というところから開発チームみんなで取り組むようになってきましたよね。 決められた状態で手渡されたものは「なぜ作るのか」が分からなくなりやすい、というのは前職の頃から感じていた課題だったので、SmartHRでは同じ状態にはしたくないな、と思っています。それに「この機能はなぜこうなっているのか」「なぜやるのか、やらないのか」は開発に限らず誰にとっても透明になっていなきゃいけないと思うんです。

稲垣:確かにこの半年だけでも、課題調査に着手してから「やっぱりやめよう」と開発を取りやめたものもいくつかありましたね。

岸:ですです。できるだけ説明はしていますが、そのあたりの意思決定はまだまだPdM内に閉じているな、PdMとして透明性を高めていかなきゃいけないなと感じています。

中期的な視点で「プロダクトの今後」を考えたい

稲垣:開発ロードマップへの注目というか、ロードマップを揉む会(※注:SmartHRの開発ロードマップを月に1度見直す会議)の視聴率も上がってきていますよね。

岸:ロードマップを揉む会も、1年前と今とでだいぶ変わってきましたよね。入社して初めて見た頃って、なんというか重鎮が集まる場、という感じでした(笑) でも今って、もっとオープンな場に、もう少し言えば開発の全員が興味を持って聞く場になってきている雰囲気がありますよね。オンラインになったことで、部屋のキャパシティも気にしなくていいし、ふらりと参加しやすくなったのかもしれません。

稲垣:組織やプロダクトの成長に伴ってできること・やるべきことが多様化し、複雑性が増していく中で、部分と全体の接続を考えることも増えてきましたよね。この数ヶ月、岸さんが旗振り役で「SmartHR本体の今後(のプロダクト戦略)を考えるプロジェクト」を進めていましたが、あれはどうして始めようと思ったんですか?

岸:ロードマップを揉む会で、中長期的な課題との向き合い方がうまくいっていないな、と思うことが増えていたんです。明確に機能が足りていないから、どうしても緊急度が高いイシューばかり優先順位が上がっていく。でも、ちゃんと中長期を見据えて課題と向き合えるようにしていきたいなと思っていて。

ちょうど稲垣さんが提案した機能が「重要なのは分かる。ただ、やるべきことは他にも山積みな状況だから、やるべきことの全体像を整理した上で、ちゃんと比較して優先順位を決めたい。」とペンディングになったことがあったじゃないですか。解決には時間を要するイシューということも要因かもしれませんが、今一度プロダクト戦略を明らかにして、課題を棚卸したいなと思ったんですよね。

稲垣:たしかに、マネージャー以上のメンバーが集結しても分からない・決めにくいことが増えているな、と感じますね。

岸:機能が少なかった頃はやらなきゃいけないことがもっと明確で、「次はこれやろう」と課題を次々撃ち落としていく感覚だったと思うんです。今はお客さまの数も増え、規模や業種業態も様々になったおかげもあって、やるべきことがたくさんありすぎて、優先順位を決めても納得しづらい状況になってるんですよね。

稲垣:そうですね。プロダクト戦略を考えるプロジェクト、今まさに大詰めを迎えて、これからこのアウトプットをどう扱っていくかにさしかかってきましたね。

岸:今まで頭の中にあったものを具現化、言語化する難しさを味わっています...。プロジェクトとしてどういうアウトプットを出せるかはまだ未知数なところではありますが、話し合う時間自体にも価値があるものだったんじゃないでしょうか。SmartHR本体のPdM・PMM全員で、考えていることをしっかり言語化する機会を持てていなかったですし、緊急度・重要度の考え方の目線を合わせられたことは大きいなと感じています。

もっと「データで語れる」PdMを目指したい

稲垣:岸さんがSmartHRで今後やっていきたいことって、何ですか?

岸:そうですね。さっき話していた「SmartHR本体の中長期」はちゃんと考えていきたいし、形にしていきたいです。その上で、PMMとか、プラスアプリのPdMにも興味は持っていますね。

稲垣:PMMにも興味があるんですね!

岸:PMMになりたい、というよりは、PdMとPMMでもっと相乗効果を出すことを考えたいです。新規で立ち上げるプラスアプリと違って、SmartHR本体のPdM・PMMの連携ってまだすごい曖昧なんですよね。開発〜顧客への提供の流れの中でタスクの分担はされているものの、それだけじゃなくて、お互いがもっと効果的に動けると思うんです。

稲垣:リリースまでじゃなくて、リリースした後の動きも変えていきたいですよね。

岸:そうですね。やっぱり、やるべきことが多い分、仮説検証の重要性も上がっていると思うんです。今まではとにかくつくることへのフォーカスが大きかったですが、リリース後の仮説検証もこれまで以上にやっていきたいですし、もっとデータで語れる・検証できるPdMになっていきたいです。他社の事例を探しても、toCに比べてtoBのPdMのKPI設定やデータを使った検証の話って世にあまり出回っていないので、社内でもっと情報交換や学びの共有をしていきたいですね。

最後に

今回は、プロダクトそのものや、日々の業務よりもう少し俯瞰して、「SmartHR本体」の組織の状況やプロダクト戦略の課題について、インタビューをお届けしました。SmartHRのリアルな今が少しでも伝われば幸いです!

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