2024年11月現在、SmartHRの登録社数 *1は60,000社を突破しています。
またマルチプロダクト戦略のもと、常に複数プロダクトが開発・提供・利用されています。
この状況で求められる「プロダクト品質」とはどういったものでしょうか?そして、品質を支える組織に求められる活動はどういったものでしょうか?
品質保証部のマネージャー(Acting *2)として2024年9月に入社したtarappoさんと、2025年1月よりVP of Engineeringに就任するsaitorycさんに、話を聞きました。インタビュアーは、現VP of Engineeringのmorizumiさんです。
tarappoさんの経歴と入社理由、感じたギャップ
morizumi:本日は「登録者数60,000社を突破したスケールアップ企業の『品質保証』のこれから」ということで、インタビューしていきます。tarappoさんがSmartHRのインタビューに登場するのははじめてだと思うので、まずは自己紹介をお願いできますか。
tarappo:平田ことtarappoです。前々職はDeNAのSWETグループにいて、主にソフトウェアテストまわりのことをコミットしていました。自動テストに限らず、いかに品質を担保するか、開発生産性を向上していくかをミッションにいろいろな活動をしていましたね。その後、前職10Xに一人目のSETとして入社して、組織の立ち上げをはじめ、自分自身もプレイヤーとしても活動していました。SmartHRには、2か月ちょっと前に、品質保証部のActingマネージャーとして入社しました。ここ10年ほどは、ソフトウェアテストまわりのことをやり続けてきた形ですね。よろしくお願いします。
morizumi:お願いします。齋藤さん(以下、saitorycさん)の自己紹介はいいですかね。
saitoryc:そうですね。記事化のタイミングで「SmartHRのVP of Engineeringに就任する齋藤さんを紹介します!」を貼っておこうと思います。
morizumi:早速ですが、tarappoさんのSmartHRへの入社の動機はどういったものだったんですか?
tarappo:私が入社した頃の10Xは100名にも満たない規模で、これから大きくなっていこうという組織でした。大きくなった時の品質保証はどんな形が最適なのか、自分の中で疑問があって。その前にいたDeNAは10Xの10倍以上の組織規模でしたが、当時の自分はプレイヤーでの動きが多く、組織としてどうあるべきかは見えていなかったんですよね。そこで一からやってみようと10Xに行って、いろいろやってみて、じゃあ今DeNAと同じ規模の組織に行ったらどんなことがやれるのかチャレンジしてみたいと思い、SmartHRに行き着きました。
morizumi:今のSmartHRだと、1,300名弱くらいの人数規模ですね。その規模の会社・プロダクトにおける品質保証のベストな在り方を考えるという点でフィットした感じですね。実際に入社して、想像とのギャップはありましたか?
tarappo:ギャップというか入社して新たに見えた部分は、もちろんありましたね。SmartHRの品質保証部はここ1年で、個々のプロダクトに専属で入る体制から関わり方の濃淡を模索して動く体制に変更したと思うのですが(参考:SmartHR 品質保証部の現状の体制と目指す姿(24/09版))、その濃淡の付け方が結構ふわっとしている状態でした。現在進行系でふわっとしている、ですね。それによって何か問題が起きているわけではないけれど、PdE (プロダクトエンジニア)と品質保証とのいい距離感・いい歩み寄り方がお互いに掴めておらず、なんとなく不安がある状態だと感じました。メンバーのみなさんも、経験上チームに入ってやることや依頼を受けてやることには慣れているけれど、いい感じに離れていい感じに近づいてという距離感は暗中模索という感じだと思います。まずはここを整えていかないとな、と。
morizumi:なるほど。品質保証の現状の課題と直結する部分ですね。齋藤さん、PdEの視点では、SmartHRの品質保証体制はどんな風に見えていますか?
saitoryc:tarappoさんがおっしゃるように、距離感というかお互いにどこまで期待していいのかは掴みにくい気がしますね。ちょっとした変更の動作確認はPdE側でもできるので正しく動作はするけれど、それで「品質がいい」と言えるかというと疑問が残る。品質の基準をチームの中で共通認識として持てていなくて、品質保証部のサポートが必要なのかPdEもよくわかっていない状態になりつつあります。その辺りを整理していくタイミングかな、と思います。
tarappo:そうですね。お互いに判断基準を持てていないので、わかりやすいものは関わりやすいんですが、これはどっちだ?(品質保証が関わるべきか、そうでないのか)というものは、よしなにやっていると感じますね。
SmartHRが大事にしたい品質
morizumi:「品質」という言葉にもいろんな解釈があるとは思いますが、現状のSmartHRの品質についてどう考えていますか?では、saitorycさんからお願いします。
saitoryc:品質を不具合がどれくらい起きるかとした場合は、プロダクトの数やユーザー数に対しては悪くない状態だと思います。ただ、たとえばユーザビリティなどのパフォーマンス面にも言及すると改善の余地はあるかなと。加えてこの点も明確な基準が設けられていないので、なんとなく遅いと感じるといった主観での判断、対応になっています。
morizumi:パフォーマンス面で一元的品質をどこまで求めるのかの基準が今はないですよね。
saitoryc:そうですね。現時点で問題が発生しているわけではありませんが、本当にこのままでいいのか不安感がある状態ですね。
morizumi:tarappoさんはどうですか?
tarappo:おっしゃる通り「品質」という言葉の解釈が広すぎるという前提はありますが、SmartHRには品質に対する軸みたいなものがない、と思っています。「これを目指そう。これは必ず達成しよう」みたいなものです。みなさんの個々の考えや想いはあって、それがうまく積み重なって今に至っているんだと思いますが、組織が大きくなりプロダクトが今後も増えていく中で、問題が起きた時に一から考えるのでは遅くなってしまいます。最近だとパフォーマンスやセキュリティの話はよく出ていますが、それは問題が見えやすい場所というだけで、他の場所でも問題は発生し得ます。これまでは大きな問題は起きていないがなんとなくどこかで問題が発生しそうな気配がする、という状態が不安感に繋がっているのではないでしょうか。
morizumi:そうですね。SmartHRはこれまで「使いやすさ」をひとつの強みにしてきましたが、一方で「使いづらい」というフィードバックをいただくケースもあります。使いづらさに影響する品質とは何なのかもまだ言語化されていないですね。
tarappo:使いづらいという言葉の背景には、レスポンスの遅さがあるかもしれないし、アプリ同士の連携のしづらさがあるかもしれない。いろんな要素が混ざって「使いづらい」という言葉に繋がっているはずなんですよね。
morizumi:なるほど。品質に対する軸がないのではないかという話がありましたが、軸というとたとえばどんなイメージでしょうか?
tarappo:まずは個々のプロダクトに対して守るべき基準を考える必要があると思っています。SmartHRはプロダクトがたくさんあり統一の基準を設けることもできそうですが、ものによって濃淡はあると思っていて。たとえば基盤には基盤の守るべきラインがあるはずで、全社で同じ基準を設けて「早くデプロイするのが正義だ」みたいになると「基盤はもっと守るべきだ」となりますよね。2024年9月に「品質保証部は、部としてこういう姿を目指しますが、各ユニットでプロダクトの特性に応じてどうあるべきかを考えてください」という方針を出したので、軸は個々のプロダクトに対して自ら考えていけるといいなと思っています。
morizumi:全体として何かというより、個々にちゃんと設定できる能力が必要だよねという感じですね。
saitoryc:パフォーマンスやレスポンス速度などユーザビリティとしての「使いやすさ」に対して、品質保証部としてどこまでカバーするのかも聞いてみたいです。PdEの立場からどこまで期待していけるといいのか、今後すり合わせる必要があると思っています。
tarappo:それこそプロダクトによると思っています。たとえば、基盤の場合は守るべきベースの品質が高く、他のプロダクトは「使いやすさ」をもっと重視すべきだよね、など。新規プロダクトは単に動くというだけでなく、使いやすさの考慮がより重要になると思います。それぞれのプロダクトに対して今何をどう守るべきかがあり、それを品質保証部としてちゃんと守り、確実に守れるようになったら次の守るものを見つめてやっていきたいと考えています。
saitoryc:ありがとうございます。まさにそうだと思います。今後、うまく協力してやっていきたいですね。
品質保証部の理想のあり方と、理想への歩み方
morizumi:抽象的な質問になりますが、SmartHRのプロダクト開発における品質保証をどうしていきたいですか?
tarappo:難しいですね(笑)。でもやっぱり、QAエンジニアが各チームに必ず専任で入っていろいろ守っていくスタイルではなく、どう関わっていくべきかを自ら考えて動くことで、その組織の品質保証のレベルを少しずつ上げていきたいんですよね。少しずつ上げていって、当たり前のレベルをどんどん変えていきたい。なので、どうしていきたいか?と聞かれると、徐々にみんなでレベルアップしていきたいですし、品質保証部はそれをリードできる組織になっていきたいです。スクラムでどんどん改善していく中に品質保証の観点も当然含まれると思っていて。QAが専任でいなくてもレベルアップしていけるようにしたいですね。なので、組織がどんどん大きくなったとしても、品質保証部の人数は必ずしも増やす必要はないと思っています。人数を増やさなくても、組織として品質保証のレベルが上がっていくような状態にしたいですね。
saitoryc:イネイブリングとしての関わり方を突き詰めていくと、まさに組織として能力を高めていくことが重要になりますよね。
morizumi:プロダクトを開発するエンジニアの立場から、ここは頑張ってほしい、力を入れてほしいというのはありますか?
saitoryc:やっぱり、何か客観的な指標がほしいなとは思いますね。たとえば、先ほどのレスポンス速度の話は非常にわかりやすいですよね。このプロダクトは基本的に何秒以内にしよう、とか。それ以外にもこういう観点を押さえておくと客観的に判断できるよといった考え方がチームに備わるといいなと思います。そういうチームにしていけるようにサポートいただけるとありがたいです。
morizumi:これまでも実践してきたストリームアラインドチームが価値提供していく流れを止めることなく、うまく品質を担保しながらリリースすることをやっていけるといいですね。品質保証の考えを組織に埋め込んでいく、みたいな。おふたりが話している方向になるといいなと思います。tarappoさんが考える「理想的な品質保証」みたいなものはありますか?
tarappo:一般的に、開発とPMだけで品質を語ることが多いのではないかと思いますが、ビジネスサイドまで含めて品質保証だと思っています。プロダクトを開発してリリースされる時、ユーザーが触れるその瞬間に、ちゃんと価値提供できるように当然なっていたいですし、品質保証はボトルネックになるのではなく、開発・提供において当たり前に実践されるもののひとつでありたいです。ただ早く出すことに価値を置くのではなく、企画して開発して提供する一連の流れの中で品質についても考えられていて、当たり前に早く、当たり前に偉業*3レベルでプロダクトを出し続けていきたい。そういう状態を実現できるといいですね。
morizumi:なるほど。ビジネスサイドの話も出ましたが、要求をちゃんと捉えることも含めて、プロダクトの広義の品質について一緒に考えながらものづくりをしていけるようにする、という感じですね。今の話を受けて、saitorycさんはいかがですか?
saitoryc:QAのセオリー的なところで、作ったあとでテストするだけではなくて企画段階から関わることで品質にコミットしていくみたいな考え方もあると思うんですけど。それも、PMのところに来た時に関わっていくイメージだったので、ビジネスサイドまで巻き込むことを理想とすることもできるんだというのは、今新しい気づきでした。ぜひ一緒にやっていきたいですね。
共に挑戦する仲間を探しています!
morizumi:tarappoさんから見て「今、SmartHRの品質保証部だからこそこんな経験ができる」といった点があれば教えてください。
tarappo:SmartHRだからこそ、というのは結構あると思っていて。プロダクトがこれだけたくさんあり、連携しながらスピーディーに作られているところに、濃淡を付けながら関わっていける組織はなかなかないと思います。特定のものに関わるケースが比較的多い中で、いろいろなものに対して、自分で距離感を考えながら、新しい技術を使いながら関わっていける環境は珍しいですし、この規模の会社でそれができるのは結構楽しいんじゃないかと思います。
morizumi:絶賛採用中ですが、どんな方に来てほしいですか?
tarappo:いろいろと新しいことをやっていかなければならないので、新しいことに興味を持って学ぶこと、挑戦することを楽しめる方だといいなと思います。その中で技術的な楽しみももちろん感じてほしい。これからスケールアップしていく企業の中で、揉まれながらそれも楽しめる方に来ていただきたいですね。
saitoryc:「使いやすさ」はSmartHRの強みであり続けたいので、そこに対して本気で取り組める方に来てほしいです。そこに対して、PdEもQAも一丸となってやっていければと思います。
morizumi:いい締めだ。ありがとうございました!
SmartHRでは、QAエンジニアを募集しています。
少しでもご興味をお持ちいただけた方は、カジュアル面談でぜひお話ししましょう!
品質保証部の各ユニットの仕事を紹介する「品質保証部連載」もぜひご覧ください。
*1:SmartHR上で事業所登録を完了しているテナント数(但し、退会処理を行ったテナント数を除く)
*2:Acting(代理)制度とは、入社時からマネジメントレイヤーの期待値で入社した人材へ適用されるSmartHRの制度です。初めてSmartHRで働く方に対して既存社員と同等の責任/期待/役割を入社当初から担っていただくため、ご入社される方と受け入れ部門双方がスムーズに、かつ最適な成果をだせるよう準備期間としてActing(代理)期間を設けています。
*3:SmartHRのバリューのひとつ「人が欲しいものを超えよう」を一言で表した言葉。参考:バリューとカルチャー | 株式会社SmartHR 採用サイト