SmartHR Tech Blog

SmartHR 開発者ブログ

「Why を語れるPMへ」SmartHRのPMグループの目指す姿とは【SmartHRのPM連載第7弾】

みなさん、こんにちは!SmartHRでプロダクトマネージャー(PM)をしています岸(@kissy)と稲垣(@gackey)です。

本記事では、「SmartHRのPM」連載企画の第7弾として、SmartHRのVP of Productである安達さんのインタビュー記事をお届けします。SmartHRのPMグループの目指す姿や、プロダクト作りにおいて安達さんが心がけていることなどについてお話を伺いました。

安達隆

チームラボにて受託開発やプロダクト開発に従事したのち、起業。EC領域でSaaS事業を立ち上げ、KDDIグループに売却。メルカリにてカスタマーサポート部門の業務システム開発を担当し、2019年にSmartHRへ入社。現在プロダクトマネジメントの責任者を務める。日本CPO協会理事。

What だけでなく Why を語れるPMへ

岸:今日はよろしくお願いします!まず、2021年のPMグループ方針である「What だけでなく Why を語れるPMへ」を掲げた背景、狙いについてお話を聞かせてください。

安達:はい。ちょっと遡ってお話すると、VPに就任したのが2020年の夏頃だったんですが、そこで初めて俯瞰した立場からPMグループ全体を見れるようになったんですよね。

岸:もう1年ほど経つんですね。

安達:そうですね。就任してから2020年末までの半年間で、PMグループの課題がいくつか見えてきました。

まずSmartHR本体については、ロードマップを決定するプロセスがあまり良くないなと感じました。例えば、ロードマップモム会(注:SmartHR本体の開発ロードマップを月に1度見直す会議)で開発すると決まってから担当のPMがアサインされるものの「これ、なんで開発する必要があるんだっけ?」となっていたり。そのせいでソリューションが迷走したり、数ヶ月検討した結果「今はやる必要がありません」となったことも何度かありましたよね。

岸:身に覚えがありますね...

安達:これまでは全社の合意で開発が決まったfeatureに対してPMがアサインされていましたが、現場のPMもやりづらそうだし、もっとPMが主体的にロードマップに関わるべきだろうと思ったんです。

一方で、プラスアプリ(注:SmartHR本体にアドオンする形で使えるプロダクト群)にも課題がありました。例えば目標設定についてです。当時、プラスアプリのPMの目標・ミッションにはよく売上達成が掲げられていました。「MRRを達成したから、PMとしても目標達成」のような。

売上を達成すること自体は素晴らしいことなんですが、それがPMの評価として妥当なのかピンときていなくて。どのような成果を出したらプロダクトの価値が上がったとするか、PMが主体的に定義するべきではないかと思いました。極端な話、マーケやセールスが頑張って売上を達成していればOKとなってしまうなと。そのような課題をモヤモヤと抱えていたんですが、ちょうどその頃に読んだプロダクトマネジメントの本に「PMは『なぜ作るのか』のリーダーシップを取る」みたいなことが書いてあり、もちろん知っていたことではあったんですけど、改めてそうだよなと思って。

そこで当時感じていたいろんな課題と、あるべき姿とのギャップが言語化できたんですよね。「なぜ作るのかをPM自身が語りきれていない」というのが根本の原因だなと。2021年はこれをPMグループの方針に据えようと思いました。(注:SmartHRでは年初に各部門のリーダーがその年のグループ方針を発表します)

岸:そんな背景があったんですね。

安達:年始から新しい気持ちで目標設定に取り組んでほしかったので、年末のみんなが有休をとってる期間にグループ方針の原稿を一生懸命書いてました。個人的に、マネージャーの仕事は「目標を決めること」と「現場をサポートすること」だと思うんです。なので、目標を決めたら仕事の半分は終わったも同然だし、ここで頑張っておけば後でラクができるぞと(笑)。

マネージャーの仕事は目線を上げることと背中を押すこと

岸:私自身、まさに安達さんが仰った課題を感じる場面に出くわしたことがあったので、この方針とてもいいなと感じたことを覚えています。

安達:ただ、このグループ方針は私がゼロから考えたわけではありません。日々みんなと1on1などで話していると「こういうところがやりにくい、課題を感じているだろうな」というのが分かってくるんです。そういった課題を抽象化し、みんなが自分ごととして考えられて、かつ会社にとって推進力となるような方針は何だろうかと考えた結果です。

稲垣:私はグループ方針を読んで危機感を覚えたのが大きかったですね。「誰に対してもなぜ作るのかを説明できますか?」と問われている気がして。このままではダメだよという安達さんからのメッセージと受け取りました。その結果、SmartHR本体の今後はどうあるべきかやロードマップモム会の在り方をPMみんなで考え直すいいきっかけになりました。

また、「もっとオーナーシップを持って自由にやっていいんだよ」と明確に打ち出してくれたおかげで動きやすくもなったんですよね。うちの会社でやってはいけないことなんてないんですが(笑)、ありがたかったです。

安達:そういうフィードバックは他のPMからもあったのですが、少し予想外でした。「ここまでできるよ」という目線を上げるメッセージを込めたつもりはあったのですが、グループ方針のおかげで動きやすくなったという声も多くて。

稲垣:ワイルドサイドみ(SmartHRのバリューの一つが「ワイルドサイドを歩こう」)が下がっていたんですかね(笑)

安達:まぁ誰のサポートもなしにずっとワイルドサイドを歩ける人は、たぶん会社員やってないですからね(笑)普通に過ごしていたらワイルドサイドみが下がっていくのは当たり前で、それをサポートするのもマネージャーの仕事です。目線を上げることと背中を押すことはセットでやらないと、動きはなかなか変わりません。

岸:2021年も約半年終わりましたが(注:インタービューを実施したのは7月)、ここは変わってきたなとか、ここはまだまだだなってところはありますか?

安達:みんなの行動は変わってきましたよね。先ほど稲垣さんが言ったようなSmartHR本体のロードマップの決め方を変えるなど、いろんな取り組みがボトムアップで実行されています。また、プラスアプリ側もプロダクト指標で成果を測る取り組みが始まったり。

ただ、まだ結果には繋がってないですよね。例えば価値の提供スピードが上がったみたいな明確な結果は出ていません。PMグループとしてやっとスタート地点に立ったという感じなので、これからですね。

SmartHRにおけるVPoPの役割

稲垣:安達さんってSmartHR本体やプラスアプリをどうしていきたいかをメンバーに問いかけはするけど、自分としてどうしていきたいかはあまり言及しないですよね。そう振る舞っている意図や狙いって何かあるんですか?

安達:VPoPとしてどう振る舞うべきかは私の中でも迷いはありますよ。例えば他の会社では、VPoPがロードマップの全責任を負っていたり、2〜3年後のプロダクトの未来を決めることがVPoPの責務だったりすることが多いので、自分もそうすべきなんじゃないかとか。でも、我々ってたぶんそういう会社じゃないですよね。

そもそも、PMだけがプロダクトを作っているわけではないですし、事業ドメインの性質もありますが、SmartHRってビジネス側の貢献がすごく大事なプロダクトなんですよね。どうやって売るかと何を作るかが切っても切り離せないというか。Product-Led Growthのような、素晴らしいプロダクトさえあれば口コミでユーザが増えていくプロダクトではないんですよね。

岸:その性質はToBのプロダクトだからなんですかね?

安達:商談などを経て導入が決まるプロダクトだから、ですかね。例えばSlackはToBのプロダクトですが、いわゆるシャドーITだったり一部の部署のみで利用しても効果のあるプロダクトですよね。で、これいいねとなれば全社的に広がっていく。一方、SmartHRは人事労務部門がOKを出して、情報システム部門がOKを出して、さらに社長稟議が通らないと導入ができなかったりするので、素晴らしいプロダクトを作れば売れるかというとそうではなく、セールスがきちんと商談をしたり、戦略的にマーケティングやカスタマーサクセスをしないとプロダクトとして成立しないんです。人事労務というミスが許されない領域のプロダクトということもあり、今月の入社手続きだけちょっとお試しで使おう、なんてことも難しいですしね(笑)

そういう背景もあり、プロダクトマネジメントの責任者だからといってプロダクトのロードマップをすべて自分が決めるのは違うよなと思っています。

稲垣:SmartHRらしい、安達さんらしい考え方ですね。

安達:一人で決めようと思ってもできないですしね(笑)会社の方針でもある「100の課題を100人で解く」にも通じるところがありますが、情報を持っているのは現場の人間であり、一番いいソリューションを考えられるは各部門のスペシャリストたちなので。

岸:話は変わりまして、採用観点のお話を聞かせてください。こんなPMにぜひ来て欲しいってありますか?性格でも業務スキル面でも何でも良いです。

安達:うーん。優しくて賢い人、ですかね。

岸:それはそうですね(笑)ちなみに、優しいはどこからくる理由ですか?

安達:我々のプロダクト開発ってチーム戦であり、そのチームにおいてPMはコミュニケーターとしても振る舞わなくてはいけないんですよね。なので、チームと対話するコミュニケーションスキルが必須です。どれだけ賢くても、人の気持ちがわからなければチームが動かないと思うんですよ。PMは他のメンバーに対してリスペクトを持って接し、その上で自分の意見を持って議論や交渉をしなくてはいけません。ベースとしてそういう能力を持っている人がいいですね。それを一言でいうと、優しくて賢い人かな。

あと、モノづくりに情熱を持っている人がいいですね。「プロダクトじゃなくてもいい」という人だと、苦しいときに頑張れないと思うんです。もちろん他の仕事もそうだとは思いますが、PMも楽しいことばかりではありません。そういうとき、プロダクトを作るのが好きだからという理由で頑張れる人は強い。

岸:たしかにモノづくり自体が好きというのも大事ですね。

安達:目の前の人に喜んでもらうことが大事っていう人もいるじゃないですか。ただPMって人に嫌われるような決断をしなくてはいけない場面にも出くわします。人に喜んでもらうことだけがモチベーションの人だと、そういう場面で苦しくなってしまうかも知れません。一方で良いプロダクトを作りたいというのが源泉にある人は、そのような場合でもちゃんと正しい判断ができる。そういうのを大事にしたいですね。

岸:安達さん自身、SmartHRに来てからPMとして苦しかったことあるんですか?

安達:あんまりないですね!SmartHRはとても楽…といったら語弊があるな(笑)以前に起業して役員をやっていた時期があったのですが、その時のほうが大変でした。今より若かったし、経営メンバーであるプレッシャーもあり、さらにプロダクトマネジメントも立ち上げから一人でやっていたので。SmartHRでも日々いろいろな問題は起きていますが、頼もしい仲間がたくさんいますし、自分が一人で背負わなくてはいけないこともない。昔に比べたらという基準で考えると、今は精神的に楽ですね。

好きな人達と一緒に働き、周りが自分に期待することをやる

岸:続いて、安達さんの今後のキャリアについて話を聞かせてください。会社としてもでもいいですし、個人としてやりたいことでも。

安達:それよく訊かれるんですが、ないんですよね(笑)お二人はありますか...?
何をやりたいかは具体的に考えたことはないんですが、昔からキャリアについての方針は二つあって、それは

  • 自分が好きな人達と一緒に働くこと
  • 周りが自分に期待することをやること

です。こういう人たちと働きたいと思える集団にまずは飛び込む。すると、周りから「お前はこれできるんじゃないか、これをやってほしい」と言われるので、選り好みせずやってみる。これをひたすらキャリアを通じてやっているんですよね。そうすると、勝手に道が開けていくんです。

自分がやりたいことをやっていた時期もあるんですが、うまくいかないんですよ。自分の場合は、ですが。ただそれってある意味で仕事というものの本質だと思っていて。仕事は人のために何かをして、その対価をもらうことですよね。他人のニーズを満たすのが仕事だと思います。なので、周りが求めることをやる。しかも自分が得意なことって、自分よりも周りの人のほうがよく知っていたりするので、結果的にうまくいくことが多いのだと思います。

チームメンバーからの声

岸:では最後に、PMインタビュー恒例の、チームメンバーから安達さんについてアンケートを取ってみましたのコーナーです。

  • 中長期計画について定期的に考えをとてもわかりやすくまとめて共有してくれるので、安達さんと一緒に開発するプロダクトの今後について不安を感じることがあまりなく「これがVP...!」って思っています(QA)
  • できる/できないをバシッと言える事(PMM)
  • プロダクトマネージャーという仕事の都合上、判断の連続だと思うのですが、その結果に納得感があるのでとにかく仕事がしやすいです(エンジニア)
  • 状況に応じて臨機応変かつ即座に判断ができるところ。また、その際に既にある選択肢だけでなく、プランCについても考えられているところ(QA)
  • 実施する開発項目をやる理由やその優先度の理由をわかりやすく解説してくれる(エンジニア)
  • アウトプットの質が常に高いと感じています。ドキュメントとして起こすものはもちろん、ミーティングの中での軽い案出しでも、本質的な回答をしてくれると感じています(エンジニア)
  • 難しいことを簡潔に、時に楽しく伝えられるところはとても良いなと思っています。あと常にテンションが一定なのでこちらも安心して話せます(エンジニア)

岸:これらのコメントを見ていて思い出したのが、安達さんが書かれた「開発する/しないの判断基準」に関するドキュメントです。ふわっとしがちな基準をうまく明文化していて、Slackでも結構シェアされてましたよね。

稲垣:安達さんはロジックと感情の使い方がうまいです。

安達:プロダクトを作りながらチームも一緒に作っている感覚がありますね。良いチームからじゃないと良いプロダクトは生まれないと考えています。ロジックだけで「これをやりましょう、これはやめましょう」というのも時には大事なのですが、それでチームのモチベーションが下がったらもったいないですよね。例えば「優先順位が低いのはわかるけど、こんなバグを放置しているチームで私は働きたくない」という意見も当然あるわけです。もちろんすべてに迎合する必要はないけど、そういう意見を遠慮なく言い合えることが大事だと思っています。

我々はプロダクトを通して顧客を幸せにしなければいけないんですけど、その前に、一緒に働く人も幸せにしないといけない。ロジックだけではなく感情面の話もオープンに対話していかないとチームは強くならないし、働いていても楽しくないよねと考えています。

そうしないとPMは孤独になってしまうよね。

岸&稲垣:いい話。

最後に

いかがでしたか?今回はSmartHRのPMグループのこれまでの課題、それを踏まえた2021年のグループ方針を中心にインタビューをお届けしました。プロダクトとしても組織としても拡大を続ける中、「なぜ作るのか」をチーム全員へ発信・共有するのは今後さらに大事になっていくと私も考えています。SmartHRのリアルな今が少しでも伝われば幸いです!

ではいつもの。SmartHRは組織としてもプロダクトとしてもまだまだ未完成です。 課題もやることも盛り沢山。一緒にやっていきな仲間を絶賛募集してますので、 興味をお持ちいただけた方は、ぜひご応募ください。

open.talentio.com

SmartHRのプロダクトマネージャー職に関する情報がすべてまとまったこちらの記事もあわせてどうぞ。

tech.smarthr.jp