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「SmartHRは自分たちの成功体験を一回捨てるフェーズだと思う」SmartHR PM座談会

アイキャッチ写真:松栄さん、安達さん、武政さんが並んで写っている

SmartHRのプロダクトマネジメントグループ(以下、PMグループ)は2023年11月現在、総勢23名。うち5名が2022年入社、4名が2023年入社と順調に組織を拡大していますが、特にここ最近、CPOや事業責任者を経験したハイレイヤーの方が相次いでジョインしてくれています。

その背景を解き明かし、採用活動における再現性をつくりたい。そんな考えから今回は「今のSmartHRに経験豊富なPMが入社する意義、面白さ」の解像度を上げるべく、PMグループの松栄友希さん、武政成彦さんにお話をうかがいました。PMの統括や経営レイヤーでキャリアを培ってきたお二人ならではの鋭い視点でSmartHRを吟味してもらった座談会は、パンチライン盛りだくさん。ぜひ最後までお付き合いください!

登場人物の紹介

松栄 友希(@bae

クリエイティブ職、マーケティング職を担当後、株式会社リブセンスに入社し「転職ドラフト」など複数プロダクトの立ち上げ、グロースに携わる。その後、XTalent株式会社に創業時から執行役員として参画。株式会社hey(現 株式会社STORES)に入社し、STORES、STORESレジのシニアプロダクトマネージャーを経験。2022年12月、SmartHRに入社しタレントマネジメント領域のPMチーフを務める。日本CPO協会理事。

武政 成彦(@takemasa

メーカーで商品企画やプロダクトデザイナー、スタートアップで事業開発のマネージャーを経て、ラクスル株式会社で印刷事業のデザイン領域で事業責任者兼プロダクトマネージャーに従事。PlatformやSaaSのプロダクト開発や組織のマネジメントに携わる。2021年9月に株式会社アダコテックに参画、CPO(Chief Product officer)職を務める。2023年6月、SmartHRにタレントマネジメント領域のPMとして入社。

安達 隆(@adachi

2009年にチームラボ株式会社へ入社し、受託開発等に従事。2012年に株式会社Socketを共同創業。Eコマース領域でSaaS事業を立ち上げ、KDDIグループに売却。株式会社メルカリにて社内業務システムの開発を担当したのち、2019年にSmartHRへ入社。2020年に執行役員・VP of Product Managementに就任。プロダクト戦略の策定と組織作りを推進。

豊富な経験を経た今、SmartHRに入社した理由

安達:お二人の入社は、松栄さんが2022年12月、武政さんが2023年6月ですね。まずは前職で何をしていたか、そしてSmartHRに入社した経緯を聞かせてもらえますか?

松栄:前職は、STORES株式会社のリテール部門でシニアプロダクトマネージャーをやっていました。最後の数ヶ月は、PMの横断部隊で全社的にPMの定義や評価制度の見直しに取り組んだりもしていました。

SmartHRに入社を決めた理由はいくつかありますが、HR領域でのキャリアが長く、HRが好きだったので、人生のどこかのタイミングでHR領域に戻ろうとは思っていたんです。
私のキャリアを見返すと、求人広告を作っていたり、マーケティングをやっていたりするんですが、共通しているのは「人は何を考えているのか、何があったら気持ちが動いたり行動を起こしたりするのか」に興味があるという点。他の仕事に就いていたこともありますが、やっぱり人に関わる仕事が一番楽しくて。楽しいからこそ勉強もするし、のめり込みもするし、自分の能力としても伸びやすい。今までの人生を振り返ってみて、HRが一番向いているという意識があります。

そこで、今の日本のSaaS市場を見て「HRをやるならどの会社か」と考えたら、SmartHR一択でした。

安達:今の日本でHRをやるならSmartHRというのは、それはなぜそう思ったんですか?

松栄:HRの領域はアカウントをきちんと押さえているか、つまり従業員の在籍情報のデータが基盤としてあるかどうかがとても重要なんです。そこがない状態でサービスを提供しようとしても、まず従業員データのアップデートからとりかからないといけない。そうなるとだんだんやらなくなっていったり、他のものにリプレイスされていくという流れに陥りがちです。その点、常に最新の従業員データを持っているSmartHRは圧倒的に強いと思ったんです。

安達:オファーを出したあとに、他社との2択で結構迷ってましたよね。どういう点で迷って、何を決め手としてSmartHRに入社してくれたんですか?

松栄:私の成長の仕方ってコンプレックス駆動なんですよ。これまでは、あえてコンフォートゾーンから抜けて自分に足りない部分を経験できる場所に身を置いて、がむしゃらに頑張って身につけて次に行くっていうスタイルの転職をしてきたんです。

今回の転職の場合、SmartHRはどちらかというと私の得意分野で仕事をするイメージで、もう1社はこれまでのように自分ができないと思っているところを鍛えることになる選択でした。
ただ、自分としても、どこまで自分の弱みを埋め続けるんだろうという疑問はあって。弱みを埋め続けたとしても、それだけでは頭ひとつ抜けることはできないんですよね。10科目全部で50点を取る人が本当にいいのか。10科目のうち6科目は40点だけど得意な科目は100点を取りますって人になるように、どこかのタイミングで変えるべきなのかと迷っていたんです。オファー面談の時に安達さんが「もういいんじゃない?十分頑張ったと思うよ」と話してくれて。

安達:どの立場だよって感じの言い方ですね。友達か?(笑)

写真:安達さんに笑いかける松栄さん

松栄:(笑)でも、確かになって思ったんですよね。年齢的に考えても、もうさすがに自分の強みを磨いて、それを社会に還元していくべき時なんじゃないかと思って。それで最終的にSmartHRに決めました。

安達:よかったー、言って(笑)。ポジショントークに聞こえるかもしれないけど、本当にそう思ったんです。人のキャリアのあり方として、得意を伸ばしていかないことにはあんまり未来はないよなとずっと思っていて。弱点のなさを目指しても、埋もれちゃいますよね。

武政:そうですよね。 一番得意な部分に対して評価はついてくるものですから。

安達:「この人にこれを任せたら一流」というのが1個でもあったほうが、キャリアは輝くじゃないですか。松栄さんは素晴らしい選択をなさいましたね!

では、武政さんにも同じようにうかがいます。武政さんは、採用サイトのフォームから来てくれたんですよね。あれ結構、「なんか、CPOって人が、フォームから来たんですけど……!?」って、社内がざわついてました(笑)。

武政:そうでしたか(笑)。前職は製造業向けAIのスタートアップでCPOをやっていました。プロダクトマネジメントの仕事ももちろんやるんですけど、組織や採用も見て、会社自体のできることを増やしていくところにコミットしていました。

転職を考えた時、いくつか興味のある会社に話を聞きましたが、今の時流、SaaS含めてどの企業もマルチプロダクトを目指そうとしていて。僕個人のテーマとしては「その時代の新しい道具をいっぱいつくりたい」というのがあったので、プラットフォーム系も面白そうだなと思っていました。
じゃあ、どの会社が実際勝てるんだろう?と考えると、松栄さんの話にも出ましたが、データをどれだけ持っているかがやはり大事です。SmartHRは従業員データを入口から出口まで押さえていて、それは大きな強みだと思いましたね。

安達:お二人とも玄人な視点で会社を選んでますよね。冷静に会社の将来性にかけていただいた。そこには僕もめっちゃ同意します。どれだけミッションに共感していても、どれだけ中の人がいいと思っていても、伸びなさそうな会社には行かないですよね。

武政:僕の場合、採用プロセスの途中で「ARR100億突破」というニュースが出たんですよ。予想よりはるかに伸びていたので、すごいと思いました。数字が裏付けになって後押しされたというのは大きいですね。

www.itmedia.co.jp

安達:武政さんは、最終的に会社を選ぶ軸をExcelにまとめてたんですよね。

武政:はい、項目が35個あります(笑)。過去の失敗や学びを活かしてポイントをつけてるんですけど、SmartHRは一番ポイントが高かったです。

安達:35個!それは何段階評価なんですか?

武政:項目ごとに、◯△×をつけていました。この会社いいなって一度思うと気持ちはどんどんいいほうに傾いていくものなので、ガバナンスを効かせるために客観評価を置いておいて、自分の気持ちと向き合って考えます。最終的に内定が出揃った時に、この評価も意識するし、1日1回、どの会社に行きたいか決めるというのを5日間続けました。5回考えた時に、SmartHRに決めた日が一番多かったので、ほぼほぼ満場一致で決めました。

安達:満場一致(笑)。

武政:いろんな軸で考えて、一番フィットを感じました。ほかに内定をいただいた会社も、もちろんそれぞれ違う魅力がありました。今回僕が大事にしたことの中でこれまでと違ったのは、「長く腰を据えてしっかりと働けそうか、事業に貢献できそうか」を大事にした点です。

過去10年間くらいずっとスタートアップで仕事をしていて。会社が大きくなって上場も体験して、また小さなスタートアップに行く、というのを繰り返してたんですけど、それは一旦落ち着いてもいい頃合いではないかと思って。そういう自分の気持ちともマッチしたタイミングでした。
SmartHRのフェーズに対しても、自分が持っているものをしっかり提供して貢献できそうだと思いましたし。これが上場して10年経った会社だったら、また考えは違っていたかもしれないですけど。いいタイミングでお会いできたというか。

写真:安達さんとお話しする武政さん

松栄:ちなみに35項目の中で、SmartHRのポイントが高かったのはどんな点ですか?

武政:まず、経営者が優秀かどうか。強いCOOがいるというのはひとつ重要な軸としてあります。僕、倉橋さんめっちゃ好きなんで、選考の途中で倉橋さんと話せたのはすごくよかったですね。
また自分の年齢も見据えて年俸はこれぐらいほしいというラインがあったり。チームを強くしてチャレンジができるか、などもありました。

安達:CEOじゃなくてCOOに注目するのはすごく玄人っぽい。PMとしてはそこ大事ですよね。ビジネスサイドとのコミュニケーションが健全かどうかは、プロダクトマネジメントの肝になる。そういう意味でCOOを見るというのはわかります。

松栄:私もカジュアル面談で「誰に会いたい?誰でもいいよ」と聞かれて、「じゃあ芹澤さんと倉橋さんで」と言って会わせてもらいました(笑)。

安達:2択のつもりで、芹澤さんでも倉橋さんでも会わせるよって言ったら「両方」って言うから、「わかったよ、両方会わせるよ」って。すごい強いカジュアル面談でした(笑)。

武政さんは、そもそも松栄さんの入社エントリを見てSmartHRを選択肢に入れてくれたんですよね。

武政:そうそう。SmartHRって、僕の中では、結構びっくりオファーを出す会社という印象があって(笑)。3〜4年前にエージェントの方から「SmartHRは応募はできると思うんですけど、結構びっくりしたオファーが来るかもしれないです」って言われたことがあったんです。その印象が強くて。でも、松栄さんが入社したことを知って、経験を積んだPMに選んでもらえるオファー条件を提供できるようになったんだなと認識が上書きされたんです。

安達:その話を聞いてレピュテーションって怖いなと思って(笑)。確かに、僕が入った5年前はびっくりオファーでした。でも今は全社的に給与水準も上がっていて、国内の大手SaaS企業と比べても遜色のないオファーは出せています。 SmartHRは年収や昇給額を平均値でしか外に出していないので、アッパーがどれくらいかは全然見えないですよね。「給料低いレピュテーション」を覆していきたいというのも、この企画のひとつの狙いです!

PM組織のすごいところ、できていないところ

安達:入社してみて、SmartHRのすごいなと思ったところと、逆にここは全然できてないなと思ったところを聞かせてもらえますか?

松栄:すごいなと思ったのは、この規模でボトムアップ型、分散型組織をやり切れているところです。
会社の規模が大きくなると、どうしてもアラインが難しくなってきますよね。どんどんトップダウンが強化されていって、いちPMからすると裁量が小さくなっていくっていうのが世の流れなんですけど。SmartHRに入って、ボトムアップとは聞いてたけどこんなにボトムアップなんだ!っていう衝撃はすごかったですね。私、もともとPMは水平分業がいい、つまり誰かが考えてそれをほかの誰かが実行するというような業務分担はしないほうがいいと思っているんです。でも、ある程度の規模がある会社でそういう業務分担をしない会社を見つけるのは難しい。

安達:業務分担っていうのは、シニアPM*1がいてジュニアPMがいて、ジュニアはシニアに言われたことをやる、みたいなことですよね。

松栄:そうですね。ジュニアPMは何かの範囲の一部や、ある程度方向性が固まったものをやるという業務フローになりがちです。SmartHRに入って、いちPMがそれぞれのプロダクトビジョンを決めて、ロードマップを決めて、開発チームとその都度優先順位を変えて動かせるという業務のかたちを実現できているのがすごいなと思いました。

あとは、経営層やVPの胆力がすごいなと。自分でやったほうが早いしクオリティが高いのは確かだけど、そうしないほうが長期的に見て育成にもなるし、組織力が高くなることを見据えている。SmartHRは「100の問題を100人で1問ずつ解く経営」を提唱していますが、このやり方だと同時多発的にいろんなものを並行してやれる。だから、自分の範囲はここまで、ここからはあなたと、任せている。そのあたりは胆力だなと思います。

写真:安達さんとお話しする松栄さん

安達:SaaSは長期戦なので。短期的なスピードよりは、長期的な組織力にフォーカスは向いてる気がしますね。

じゃあ、褒めていただいたところで、逆にできていないところもお願いします。

松栄:プロダクトサイド全体として、コスト感覚をはじめビジネス感覚が弱いですね。会議ひとつとっても「この会議、この参加人数で毎週定例1時間って、めっちゃコスト高くない!?」と、最初のうちは震えながら参加していました(笑)。その背景には、PMとPMMの役割分担を早期にしていることや、100の問題を100人で1問ずつ解くためには全員のレベルを上げることが必要、という価値観があるんですが。

あとは、目標設定ですね。「これができたら目標達成です」という組み方をしていることが多いように見受けられ、これはアウトカムにちゃんとアラインしてるのか?と疑問を抱きました。

安達:「これができたら」っていうのは、目標がアウトカムじゃなくてアウトプットになっちゃってるということですか?

松栄:アウトプットに近いなと。最近は目線がだいぶアウトカムに寄ってきたと感じます。具体例を出すと、単純に「大手企業の契約がとれたらハッピーだよね」ではなく、「本当に今、大手企業の契約をとるのがハッピーなのか」とビジネス視点で考えられるかとか。そこが事業をやっていく上では重要なので。

安達:その辺、武政さんも同じ意見ですか?

武政:同意見ですね。僕がすごいと思っている点から話すと、あの時代に人事・労務のSaaSを始めた市場選定がまず秀逸だなと。その上に正しい努力を行って、人を増やして成果を出してきたのがSmartHRだと思ってるんですね。そこから生まれたカルチャーも、本当にみんないい人たちで、素直で、前向きなのが素晴らしい。

逆に弱いなと思ってる点は、松栄さんと被るんですが、コスト意識ですね。数字をいくら作らないと次のステージにいけないんだっけ?そのために何をやるんだっけ?と逆算して考える力がまだ弱いのかなと。ボトムアップですべてを決めていく素晴らしいカルチャーがある一方で、ボトムアップであるがゆえに逆算的な思考があまり強く効いていないなと感じています。

写真:松栄さんと武政さんがお話ししている

安達:そうですね。SmartHRは、いきなり石油がとれちゃった国、みたいなところありますからね。もちろん創業時からピボットを繰り返して、石油を掘り当てるまで努力したという前提があるわけですが。

松栄:本当にそう。次に行こうとしている国、今までと同じように石油とれないよ?って。

武政:最初に人事・労務の市場を獲得して、次にタレントマネジメント事業を手がけて、さらに第3、第4の事業を育てていくというのがこれからのSmartHR。環境の大きな変化は、労務では先行者だったのが他事業では後続になった点ですよね。タレントマネジメント領域はすでに先輩企業がいらっしゃるわけで。

そういう不確実性が高い中で勝ち切るためには、どういう組織であるべきか、どうやって企業価値を上げていくかに向き合って取り組んでいくのが、SmartHRの次の数年間のチャレンジなんじゃないでしょうか。そういう状況で、私たちみたいな経験を持つPMが入社する意義があるんじゃないかなと感じています。

安達:そうなんですよ!他社で揉まれてきた方にカルチャーを更新してほしい。

武政:SmartHRのプロダクトサイドは会社や事業の継続にかかわるような、資金や時間がギリギリの環境下で開発をしてきた人は多くはないですよね。

松栄:そうそう、ギリギリの環境での経験は豊富ではない。かといってそれは、能力がないという意味ではなくて。こういう視点でもっと考えたほうがいいよと伝えた時の吸収率はやっぱりすごいですよね。それは今まで、自分たちでプロダクトビジョンを決めてロードマップを決めて意思決定してきた土台があるから。すごく豊かに水を吸いとるスポンジがあるから、いかに新しい水を注げるかを考えているところです。

武政:失敗や挫折をいっぱいできる環境があるといいですよね。

松栄:失敗をあんまりしたことがない組織だというのはすごく感じます。失敗してないと、失敗するのがどんどん怖くなるじゃないですか。だから守って守ってつくっていく、という感覚はみんな強いなと思います。
これからはそんなに石油出ないからね?守りに入らずに最速のスピードでやっていかないと、もう枯れちゃうんだよ?と、そのマインドをみんなの中にセットしてやっていかないとなと考えています。

安達:ちょうど過渡期なんですよね。オアシスを出て、砂漠に繰り出さなければいけないみたいなタイミングで、今、サバイバル術を持ったPMが求められている。

武政:生き抜く力が強い人たち。

安達:水そんなに使ったらあとでやばいぞ!みたいな。

松栄:そうそう!

武政:それはすごくわかりやすい表現ですね。

これからのSmartHR、会社としてPMとしてここが面白い

安達:SmartHRのこれからのチャレンジの話も出ましたが、今後のSmartHRはここが面白いというのはどのあたりだと思いますか?

松栄:会社としてと、PMとしての2つの視点でお話ししますね。

会社としては、労働人口がどんどん減少していく日本で、SmartHRがその社会課題に対して出せるインパクトがめっちゃ大きいと思ってるんです。それができる会社は日本には限られていて、SmartHRはそのひとつだと思っています。単にプロダクトをつくる、ただ目の前の人を幸せにするところにとどまらず、「日本をどうにかしようぜ」に対して、本気で取り組めるのは面白いと思います。

武政:自分がしたことのインパクトが、社会に対してどれほど大きいかは大事ですよね。

安達:最近はオファーの時によく言いますね。「日本のために入ったほうがいいです」って。

松栄:はい、日本のために入ったほうがいいです!私は、自分が生きた世界線と自分がいなかった世界線だったら、自分が生きた世界線のほうが世の中が良くなる選択をしようと思っているんですけど。過去、自分が経験してきたことと比べても、今がその差分を一番大きく出せる環境にいると思います。

安達:今のSmartHRは一定のユーザー規模、ビジネス規模がある上に新しい事業価値を提供していこうというフェーズです。今から自分で小さいスタートアップをつくるよりも、やりたいことが実現できるスピードが速いですよね。

写真:安達さんがお話ししている

松栄:同じ課題感を持っていたとしても、自分で起業したら10年かかるところをSmartHRなら3年でできます。逆に言えば「私たちは、ほかが10年かけることを3年でやりとげるんだ」というマインドを持って仕事をしたいですね。目の前の小さな差分ではなくて、日本の社会課題に対して一番インパクトを出すには?それを早く実現するには?という視点でロードマップを引くべきだし、どの事業をやるのか意思決定してほしいと考えています。

安達:めちゃくちゃいいこと言いますね。ビジョナリーだ。

松栄:そういうテンションで仕事したいですね。

視点を変えて、いちPMとして面白いところは「タレントマネジメント」という日本のここ30年で上手く変革しきれなかった領域でイノベーションを起こそうとしているところだと考えています。タレントマネジメントって正解があるものではないから難しいんですよね。長く停滞しているこの領域に対して、何をつくっていくのか意思決定できるのはすごく楽しい仕事です。能力も伸びるし、いい経験になると思います。

一方で、タレントマネジメントって単体ではどうにもならないんですよ。人事・労務の事業は必須だし、第3、第4の事業もどんどんつくっていかなきゃいけない。タレマネ部門に所属していてもタレマネ以外のことも考えないといけない仕事です。俯瞰した視点を鍛えることにも繋がるので、それもいいことですよね。

安達:今のSmartHRはマルチプロダクトがデフォルトで、いちPMでも全体を俯瞰しないと意思決定できない状況になってきましたね。そうなると一人ひとりの視座は上がりそうです。

松栄:それも、安達さんが視座はこう持つんだよって言ってやらせるような環境ではないですから。みんな泥だらけになってやればいいじゃんと思ってます。ジュニアの頃はうまくいかない経験もたくさんしますが、ある程度育っちゃうとそういう経験もしにくくなるんですよね。それなりに能力を身につけた自分に対してすごく難しい課題が次々降ってくるという、いわゆるミドルがシニアに育つにはすごくいい環境だと思いますよ。

武政:一方で、そこの学習効率があんまりよくないのは課題だと思っています。徒弟制度との比較でいうと、横に強いボスがいるとその人の視座を盗んで一気に成長したりするじゃないですか。今のSmartHRは、30代前半くらいのPMのボリュームが厚くて、目線も同じくらいの人が多い。安達さんも今がっつり中に入って開発するという感じでもないじゃないですか。横から盗むという機会が少ないのは、フラットであるがゆえのデメリットにもなりうるのかなと思います。

安達:わかります。だから武政さんが入ってくれて、すごく変わったなと思ってるんですよ。どんどん道具を発明してる人が社内に一人いる感じ。道具っていうのは、こういうやり方をするとよかったよ、というプロダクトマネジメントの手法を、横展開して実践できる型に落として広めてくれるという意味なんですけど。

武政:それが趣味なんです(笑)。シニア層が増える意義はそういうところにもあるのかなと。いろんな業種で培ってきた使えそうなものを抽象化して道具にしていく。

松栄:それを見ることで、自分自身が自己流で曖昧にやってきたことの甘さを知るいい機会にもなりますよね。

安達:僕の中では松栄さんと武政さんは結構対照的で。松栄さんは先頭に立って「こっちだ!うおーーー!」って引っ張るタイプで、武政さんは、後ろのほうですごい勢いで武器を作っている感じ。タレマネチームはすごくバランスがいいなと思います。

武政:違う強みがあるのはすごく感じます。ビジョンは確実に松栄さんのほうが強いけど、それをどうやって具体的に実現するかという道具づくりは多分僕のほうが得意。

松栄:私が先発隊で、武政さんが兵站担当って感じですよね。

武政:その感じ、すごいわかります!

松栄:組織が大きくなると、兵站が弱いと停滞するので。だから、武政さんが今入ってきてくれて、兵站の土台をどんどん積み上げてくれているのは、SmartHR全体にとっていいことだなと思っています。

武政:PMでもデマンドに強い人とサプライに強い人がいると思うんですけど、そこの違いなのかもしれないですね。

安達:確かに。もっと道具を作る人が増えてほしいですよね。

松栄:うん。増えてほしい。

経験を積んだPMにとってのSmartHRというキャリアの価値

安達:前職で松栄さんはマネージャー、武政さんはCPOだったじゃないですか。そこからSmartHRに入社する時に一旦プレイヤーに戻ったわけで。お二人のキャリアにとってそれはどんな意味がありましたか?そして実際やってみてどうですか?

武政:やってみた感じは、楽しいですね。別にCPOの経験を失ってプレイヤーをやっているわけじゃなくて、わりと高い視座を持ったままプレイヤーができているので。かつ、ボトムアップ型組織だから、やろうと言えばできる。だからポジションを落としたっていう感覚はあんまりないですね。プレイヤーとして入社しても、やることは変わってないです。
自分のキャリアにとってどんな意味があるかというと、全然、キャリア的にはありだなと思いましたね。なんだろうな……出世欲がゼロっていう。

一同:(笑)

武政:自分が一定の価値を出して、それに応じたリターンをいただければ幸せだっていう世界観なんです。僕にとってポジションを上げていく目的は、あくまで視座を上げてできることを増やすことにあるので。そこで能力が身につけば、違う業界に行ってフラットなポジションで新しいことを始めるのは全然ストレスなくできます。自分にラベルがほしいタイプの人だったら、きっときついんでしょうね。

写真:談笑する武政さんと松栄さんと安達さん

安達:海外では元起業家を集めてプロダクトを量産している企業もありますよね。SmartHRもそういう感じになるといいなと思っていて。肩書きじゃなくて、ミッションの大きさや出せるインパクトで優秀な人を惹きつけて活躍してもらう、それを当たり前にできるといいなと考えています。

武政:入社すると、SmartHRではすぐプロダクトオーナーになるじゃないですか。あの環境がいいのかもしれないですね。

安達:武政さんは職業選択においてワークライフバランスの視点はあったんですか?

武政:ありましたね。これまで、起きてる時間はほぼ仕事のことを考えてきたんですけど。この先20年を考えた時に、仕事はちゃんとする、でもそうでない部分も増やしていこうかなという思いも意思決定の中でわりと大きな割合を占めていました。

安達:松栄さんは子育て中でもありますよね。転職の際にどういう判断がありましたか?

松栄:私は転職を考え始めた時点で、子育てしながらでは絶対無理だなっていう会社は選択肢から外していたので。だから大変ではありますけど、まあこんなもんだろうなという範囲におさまっています。

キャリア選択の話でいうと、私はこれまで職種をいろいろ変えてきたために、給与が低い時代がすごく長いんですよ。上がったのはここ数年で。子どもが2人いるから教育費をちゃんと稼がなきゃと思っていて、そのためにポジションを上げる選択をしています。

一方で、私がPMをやっているのはもともとものづくりが好きだからなんです。PMマネージャーになると、自分で開発チームを持てなくなって、一番好きなことができないというもどかしさを感じていました。それに対してSmartHRに入社した時は、いちプレイヤーでいいよと言ってもらえたわけです。それは自分の年収を落としてプレイヤーにいくという話ではないので、なんて幸せな関係があったんだ!という感じでしたね。
今はチーフをやっていますが、SmartHRのチーフはプレイングマネージャーなので、自分が好きなつくる部分をやりながら、旗を振るという強味を活かしてバリューを出すことも実現できていて、生活も成り立っている。いい感じのバランスで実現できていて、私は幸せです。

安達:よかった。それを聞けて僕は嬉しいです。

武政:どんなバランスでやるか自分でコントロールできるのは大事ですよね。人によっていい感じのバランスは違うから、それぞれが選べるほうがいい。

松栄:社会に大きなインパクトを与えたければ、ある程度規模のある会社に入る必要がありますが、マネージャーになれば現場の感覚は薄れるし、プレイヤーになればやりたいことがやり切れない。じゃあ自分で本当にやりたいことをやるためにスタートアップを立ち上げるとなると、めちゃくちゃハードワークになる。どこに行っても微妙にやりたいことができない、という状況になりやすいですよね。今のSmartHRは、私にとってはやりたいことがすべて叶えられるすごくいい場所だと思います。

ただ一点言いたいのは、労働時間の自由が効くからといって求められるバリューの大きさは別に小さくないということ。ゆるい会社でしょ、と見られているとしたらそれは違います。PMのミッションも、世のほかのPMよりはだいぶ重たいと思います。ボトムアップ型である分、いちPMに求められるレベルも高いし範囲も広いし、責任も重いです。

安達:僕は、もっとやりたいなと思ってるんです。あんまりピリピリした雰囲気にはしたくないんだけど、ものすごくストレッチした目標を立てて、それを達成できる組織にしたいですね。

松栄:事業が急速に大きくなって人数も増えている中、ちょっとスピードが遅いなと思っても、人数が増えてるからしょうがないね、システムが大きくなってるからしょうがないねって言い訳はできちゃうんです。でも諦めなければ、やれることはいっぱいあるはず。緊張感というのはどうしても薄まっていってしまうものですが、うちらベンチャーだよ、生きるか死ぬかでやってるんだよっていうマインドを強めていくことは必要だと思っています。

武政:会社がなくなる可能性がある、と思いながら仕事をしてる人がどれくらいいるのかなって思うことはありますね。

会社の将来という視点でいうと、SmartHRは現時点で一定の成功をおさめつつある会社で、じゃあこの先はどこを目指していくのか、という先の風景が見えにくいと思う時があります。グローバルで勝つことを目指すのか、国内で社会課題を解決することを目的にするのか、そこそこのSaaSで落ち着くのか。目標にどこまでストレッチをかけるかも、SmartHRがどこを目指しているのかに密接に紐づいてくるわけですから。目標を達成した状態ではどんな風景が見えるのか、もう少し見えるといいなと思いますね。

松栄:イノベーションのジレンマも今後起きてくると思うので、組織のあり方も大きくアップデートする必要がありますね。SmartHRは自分たちの成功体験を一回捨てるフェーズがそろそろ来ていると思います。

安達:ビジョンについてはまだ余白の部分も多いので、それは確かに課題ですね。もっと解像度を上げて示していく必要があるなと思います。

では、今回の座談会はそろそろこの辺で。経験豊富なお二人ならではの視点でいろいろな角度からSmartHRの今についてお話していただきました。どうもありがとうございました!

写真:松栄さんと武政さんが並んで微笑んでいる

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制作協力:イトウヒロコ

*1:年齢ではなく、PMとしての経験やスキルを踏まえ、便宜的にシニア、ミドル、ジュニアという言葉を使っています