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スクラムの未来を祝う夜 —— スクラムガイド拡張パック日本語版披露宴レポート

こんにちは、アジャイルコーチの@wassanです。

2025年8月28日、SmartHR Spaceにて、私も翻訳に参加した「スクラムガイド拡張パック(Scrum Guide Expansion Pack、以下拡張パック)」の日本語版披露宴を開催しました。

このイベントは、単なる翻訳版の公開ではなく、これからのチーム運営にどう活かせるのかを考えるきっかけの場でもありました。本記事では、イベント内容を整理しつつ、拡張パックを実務に役立てる観点をまとめます。

👉 Scrum Guide Expansion Pack 日本語版はこちら

開始早々、拡張パックの著者ジョンとラルフから日本のコミュニティへのビデオメッセージが流れると、会場は一気に熱気に包まれました

スクラムガイド拡張パックとは

スクラムガイド拡張パックは、2025年6月にリリースされたスクラムガイドの副読本です。スクラムの共同考案者であるジェフ・サザーランド博士と、ヨーロッパの二人のアジャイルコーチ、ラルフ・ヨーハムとジョン・コールマンの3人によって執筆されました。

拡張パックには、執筆の目的として、以下のように書かれています。

スクラムの導入をより成功させるため、この拡張パックは、Ken SchwaberとJeff Sutherlandによる2020年版スクラムガイドを基に、現在の状況に合わせた追加のガイダンスを提供する。

拡張パックは大きく二つの部分に分かれています。前半は、スクラムの基礎となる、または現状に適応すべき支援・補完理論を説明し、後半は、それらの理論と現状を踏まえて再整理されたスクラムの3-5-3(3つの役割、5つのイベント、3つの作成物)を解説しています。

日本語版披露宴では、拡張パックの構成に沿って進行しました。前半では翻訳チームが拡張パックの誕生背景や支援・補完理論について解説し、後半では参加者が「知識構成型ジグソー法」を活用して役割・イベント・作成物に関する協調学習に取り組みました。

なぜ拡張パックが必要なのか?

冒頭で私から、拡張パックが生まれた背景について説明しました。

現代のスクラムチームは次のような課題に直面しています。

  • フィーチャーファクトリー化
    • プロダクトマネジメントと開発の分断
    • 結果として検査と適応が機能せず「タスク消化」に陥る
  • AI時代の働き方
    • チームへのAI導入が必須になりつつある
    • しかし、人間とAIの役割分担が曖昧なまま

また、2020年版スクラムガイドは「誰でも使えるように」シンプル化されましたが、その結果、プロダクト開発の現場での具体的な活用法が分かりにくくなったという側面もありました。拡張パックは、このギャップを埋めるために誕生しました。

現代のチーム運営のヒントとなるスクラムの支援・補完理論

翻訳チームのScrum Inc. Japanの山本 尊人さん・内山 遼子さんからは、スクラムの3-5-3(3つの役割、5つのイベント、3つの作成物)に新たな解釈をもたらす支援・補完理論について、まず基礎的な概念が紹介されました。

  • 複雑性
    • 未知が多く因果関係も後からしか分からない環境において、短いサイクルで検証と学習を繰り返す必要がある
  • 創発
    • チームの相互作用から新しいアイデアや解決策が自然に生まれる現象
  • 自己管理スクラムチーム
    • チームが自律的に意思決定し、主体的に問題解決を行う
  • プロフェッショナリズム
    • 尊敬・説明責任・卓越性を重視し、価値提供に責任を持つ姿勢
  • リーン思考
    • 価値の流れを最適化し、継続的な改善を推進する考え方
  • 経験主義
    • 観察と学びに基づいて適応していくアプローチ
  • ケイデンス
    • 一定のリズムで検査と適応を繰り返し、持続可能なペースを構築する

これらは、チーム運営の方針や日常的な意思決定の基準として役立ちます。

実務に直結する、さらなる追加の視点

続いて、翻訳チームのサーバントワークスの長沢 智治さん、Regional Scrum Gathering Tokyo実行委員長の川口 恭伸さんから、チームを次のレベルに導く「さらなる支援・補完理論」が紹介されました。

アジャイルリーダーシップについて熱く語る長沢さん

  • プロダクト思考
    • プロジェクト完了ではなく、長期的な顧客価値の実現にフォーカスする
  • システム思考
    • 部分最適に陥らず、全体の流れを俯瞰する
  • ディスカバリー
    • 顧客理解と仮説検証を継続的に行い、学びをプロダクトに反映する
  • リーダーシップ
    • 誰もが役割に応じてリーダーシップを発揮できる環境を整える
  • 第一原理思考
    • 慣習にとらわれず「なぜそれをするのか」を問い直す
  • 人と変化
    • スクラム導入の難しさや変化に伴う痛みを正しく認識して取り組む

これらは、形式的なスクラムを超えてチームが成長するための理論的な武器となります。

学びの体験 : ジグソー法ワークショップ

イベント後半では、川口さんのファシリテートにより「知識構成型ジグソー法」を用いた協調学習を行いました。

ジグソー法では、自分が理解したことを他者に説明し、他者の理解を聞き、自分の理解をアップデートするプロセスを繰り返すことで、短時間で深い学びを得ることができます。

ジグソー法の3つのステップ

ジグソー法は、参加者が特定のパートのエキスパートとなり、3つのステップで学びを深めていきます。参加者は他者への説明や対話を通じて、全体の理解を構築し、自分の担当分野と他の部分との関連性を把握することで、知識を効果的にアップデートします。

  1. エキスパート活動:拡張パックの役割・作成物・イベントのいずれかを深く読み込み、同じテーマを担当する人同士で議論。
  2. ジグソー活動:異なるテーマを学んだ人が集まり、それぞれの知識を交換。
  3. 統合活動:元のグループに戻り、全体像を再構築し理解を深める。

拡張パックで整理された「役割・作成物・イベント」

参加者はジグソー法を通じて、従来のスクラムガイドに加え、イベント前半で紹介された支援・補完理論に基づいて拡張パックで再整理された「役割・作成物・イベント」の重要ポイントを学びました。

  • 役割
    • 従来の肩書き的な説明にとどまらず、それぞれの役割がどうリーダーシップを発揮し、どう協働するかが強調されている
    • さらに、スクラム導入を支援する経営層(サポーター)を含むステークホルダーや、AIもチームの役割に追加された
  • 作成物
    • ゴールは単なる成果物ではなく、「仮説を検証するための軸」として扱われる
    • 特に重要なのは、従来の「完了の定義」に加え、「アウトカム完了の定義」が導入されたこと
    • これにより「作ったら終わり」ではなく、利用者に価値が届き、成果につながったかどうかが完了条件になる
  • イベント
    • スクラムイベントは「儀式」ではなく、検査と適応を繰り返すフィードバックループ
    • プランニング、レビュー、レトロスペクティブなど、各イベントがチームの学習と改善を推進する場であることが再確認された

参加者の学び

参加者は前半の翻訳者による解説を聞き、後半ではジグソー法を活用して拡張パックを効果的に学びました。以下に、会場で聞かれた参加者の声をいくつかご紹介します。

  • 異なる視点を持つ参加者との対話により、拡張パックの理論がどう実務に活かせるかを深く理解できた
  • 自社のスクラムイベントが真に「検査と適応」の場になっているかを見直すきっかけとなった
  • プロダクトやスプリントのゴールを「成果確認」ではなく「仮説検証」と捉え直すことで、チームをより実験的・学習志向に運営できることに気づいた

イベント終了後に「拡張パック、どれくらい理解できましたか?」と1〜3のレベルで聞いてみると、会場の多くの人が笑顔で3本指を上げていました

拡張パックの活かし方

参加者の議論や翻訳者の解説から、以下のような具体的な活用法が見えてきました。

  • チームで共通言語をつくる
    • 拡張パックを読み、役割・作成物・イベントの定義をチーム内で統一する
  • 振り返りに活かす
    • レトロスペクティブで拡張パックの概念を活用し、「チームがフィーチャーファクトリー化していないか」「真に価値のあるアウトカムにコミットできているか」を定期的に点検する
  • 組織横断の学びを広げる
    • ジグソー法を活用し、組織を超えて知見を共有・アップデートする

まとめ

拡張パック日本語版披露宴は、翻訳者の解説と参加者の対話を通じて、自分たちのチームや組織運営を問い直す機会となりました。

スクラムガイド拡張パックは、単なる補足資料ではなく、現場をアップデートするためのツールキットです。これをきっかけに、スクラムが「形式」から「価値創造の仕組み」へと進化していくことを願っています。

SmartHRでも、拡張パックを活用しながら、スクラムのさらなる発展を目指していきたいと思います!

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