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「データ入力レス給与計算」への道 ─ 労務領域PMの鼎談インタビュー

SmartHRは今年、積年の思いを持ち続けた給与計算機能をリリースしました! 労務業務のさまざまなプロダクトのコア、心臓部になるような機能として、大きな期待を持って開発を続けています。 給与計算機能がSmartHRに備わることで、業務がどのように変わることを目指しているの? 既に多くのプロダクトが存在する給与計算市場に圧倒的な後発者として挑む理由って? などなど、これからのSmartHRの労務領域が目指していることと重ねながら、インタビューしてきました。

登場人物

haji:届出書類機能を担当しています。届出書類機能とは、社会保険や雇用保険などの行政手続きのための書類作成や電子申請ができる機能です。給与計算機能との関わりが深いので呼んでもらいました。

chankes:給与計算機能のPOを担当しています。SmartHRではドメインエキスパートとして年末調整機能(申告書収集)の開発に携わるところから始まり、5年の時を経て、あらためて年末調整(年末調整計算)と戦っています。

sayama:基本機能の従業員データベースを担当しています。労務担当者が従業員やその家族のデータを入力・出力する機能に携わっており、給与計算のための元データのひとつになるため呼んでいただきました。

「データ入力レス給与計算」を目指すワケ

—— まず、そもそもSmartHRの給与計算機能が目指していることの背景についてお聞きしたいです。「データ入力レス給与計算」というコンセプトを打ち出しているんですよね。

chankes:そうなんです。給与計算を極力スマートにする、ということと、SmartHRの特徴を最大限に活かす、ということを結ぶ、ベストなコンセプトだと思っています!SmartHRの持つ強みは“フロントシステム”と社内で呼んでいるように、従業員様と担当者様をつなぐ、情報のやり取りをスムーズにするところですよね。これまでもずっと、お客様から選ばれる理由の一つになってきました。 なぜこれが給与計算につながるかというと、人事労務の担当者が従業員から収集する情報の多くは、給与計算を行うために必要なものなんですよ。これまでは、従業員から正確な情報を収集しやすくても、給与計算はできないので、集めた情報を外部システムに連携して受け渡すしかなかったんです。給与計算機能が生まれたことでようやく、情報収集から計算までワンストップでできるようになりました。外部システムとの連携が要らない、って、本当に大きいんですよ。システムをまたいだデータの連携をするときって、多くの場合、データの加工編集作業が必要です。連携元と連携先でデータの持ち方が違ったりするので、マッピングしたり、結合したり分割したりという処理をしないといけない。月々のこの処理のプロセスもそうですし、何か運用の変化に応じて取得するデータ項目が変わる場合の対応なども、人的ミスが起こりやすいポイントになってしまうんです。

sayama:データに手を加えるのがこわい、というお話、ユーザー様からもものすごく良く聞きますもんね。

—— 給与計算って、ものすごくたくさんの情報が関与していそうだな…という印象なんですが、SmartHRが集められているデータってどんなものがあるんでしょう?

chankes:従業員から提出される自身の情報や扶養家族などの情報はもちろんですし、労務担当者が社会保険の手続きを行なって役所から得られた情報も関わります。

—— なるほど、従業員本人から集める情報だけじゃなくて、担当者が進めた手続きの情報も必要なんですね。

chankes:それから、タレントマネジメントシステムも持っていることが非常に大きいです。評価に伴う昇給とか等級や役職の変更みたいな情報も、最新のものが管理できる。これは人事やマネージャーから集める必要がある情報ですよね。こうやって、従業員・役所・人事やマネージャーなどいろんなところから、正しい・最新の情報をかき集めないといけないんです。 敢えて言うと、給与計算の業務って本当は、キッチリ計算式を組めていたら、あとはインプットデータを正しく・全て集めて取り込むだけのはずなんですよ。だから、せっかく収集できている正確な情報に手を入れる必要性をなくして、給与計算までそのまま流れていくような流れを作れたら、それが何よりユーザー企業にとっての価値になるんじゃないかと思っているんです。

—— 所属も役割もまたいで、あちこちからいろんな情報を、しかも全員分正しく集めてくるのが大変そうなイメージがとても湧きます…!給与計算の「後」の作業で真っ先に思いつくのは給与明細の配付ですけど、他にはどんなものがありますか?

chankes:前工程の情報収集だけじゃなくて、後工程も、SmartHRはすごくきれいにカバーしてるんです。給与明細や源泉徴収票の発行・配付はもちろんですし、給与計算結果を使って行われる社会保険の手続きもできるようになってますよね。それに加えて、給与振込や住民税・所得税・社会保険料の納付業務もありますが、そのうちの一部は給与計算機能でもうできるようになってるんですよ。

給与計算前の事前準備、給与計算処理、給与計算後の手続きを一連の流れとして整理した図。普段受け取っている給与明細が、こんな流れを経て届いているとは…!と何度見ても驚きます。

—— こうやって見てみると、給与計算って本当にSmartHRでこれまでできていたことの中心、ハブじゃん!という実感が持てますね。しかも、前後の業務もかなり賄われている。ところで、イメージしてたよりも後続の“社会保険などの手続き”が少ないな?って思ったんですが、この2つだけなんでしたっけ?

haji:いえ、給与計算結果を用いる手続きは、基本は社会保険料を改定するためのものと、従業員への給付に関わるものの大きく2種類に分類できるという話でして、手続き自体はたくさんあるんですよ。社会保険料を改定するものだと月額変更届と算定基礎届、給付に関わるものだと出産や育休や介護休、再雇用に関わるものなどがあります。この2種類に分類できないものも含めて、給与の計算結果が関わるものは、いまSmartHRで対応しているものだけでも10種類以上の手続きがあります。

—— 甘く見てすみませんでした!(笑)さっき、給与計算に使うためのデータはワンストップなことが重要、というお話を聞きましたけど、給与計算の後の業務になる、社会保険などの手続きではどうですか?

haji:同じく、ワンストップでデータを扱えるのは大きいですね。社会保険料の計算のもとになる標準報酬月額って、実際に支払われた給与の金額だけで計算できるものじゃないんですよ。例えば、会社独自で扶養手当を支給している会社で、5月に子どもが生まれた従業員が会社に伝え忘れていたために、7月の給与でまとめて5〜7月分の扶養手当を支給したとします。このとき、報酬月額の計算上は、この7月にまとめて支給された手当を、5、6、7月にそれぞれ支払われたものとして扱う必要があります。これって、単純に支払われた給与の金額だけでなく、遡及して給与を支払った、という情報も押さえる必要があります。ほかにも、欠勤がなかったかとか、通勤費が変わってないかとか、様々な情報を突き合わせる必要があります。

今はまだ、SmartHRでもこれらのすべての情報を収集して、簡単に突き合わせられるわけではありません。それでも、給与計算機能ができたおかげで、前後の業務も含めて簡単にする方向にどんどん向かっていけると思います。他社のシステムとの連携ではどうしても手間がかかる部分が残るので、ワンストップでデータを扱うことは本当に大事ですね。

—— なるほど〜!後続の手続きでも、給与計算のために収集している情報群が最新版として合流してくる形になるんですね。

「データ入力レス」のために足りないのは「情報の型」

—— ここまでお話を聞いていると、もう最強じゃないか、という気持ちになってくるんですけど、ところがどっこいそんなことないんですよね。掲げてる「データ入力レス給与計算」ができるぞ、と胸を張って言うには、まだまだ足りないデータ項目やデータの属性、機能もあると思っています。そのためにも、SmartHRの労務領域が今取り組もうとしていることについて教えてください。

sayama:データ入力レスの実現にとって一番重要なのはやっぱり、データの加工や調整の手間をいかに省けるかということですよね。そのためにもまずは、給与計算に必要な「情報の型」を標準で提供できるようになることだと思っています。もう一つは、履歴情報の完備ですね。今は、従業員の情報は“いつからいつまではどの部署に所属していた”のように履歴を管理できていますけど、家族の情報はそうじゃありません。さっき「実は子どもが生まれてて」という話があがりましたが、実際に生まれたその日付で、つまり過去の情報を変更して初めて正しい計算や手続きができるとなると、やっぱり履歴情報を管理しやすい状態にならなければ正しさを十分担保しきれないなと思うんですよ。

—— なるほど〜。この「情報の型」って、どんなものが必要なんでしょう?

sayama:これは一例ですが、休職の情報って、今はSmartHRの標準項目として持っていません。なので、もし従業員情報として管理したい場合、自由に項目を追加できる[カスタム項目]として登録してもらっていたりします。そうすると、「休職開始日」「復職予定日」みたいな情報を記録していくこと自体はできますけど、どのカスタム項目がどんな情報なのか、データの意味を判別できないと、給与計算には使えないんですよね。

chankes:そうそう、そうなんですよね。多くの会社で給与計算に必要な情報項目の中でもまだ、SmartHRの標準項目にないものってあるんです。これをきちんと定義して、型も含めて収集管理できるようになると、今はできない計算処理も、手続きでの活用もできるようになるんですよ! それに、たとえば休職みたいに“期間”が計算で重要な項目なら、それに合わせた入力ルールも自ずと組めるようになります。単純なケースですけど、休職開始日より復職予定日が前で入力されるっておかしいじゃないですか。必要な情報の型を定義していくことで、こうやって、従業員から集めるときにも間違いにくいような設計がしていけるようになるんですよね。

—— その通りすぎますね…。どう使うかを見据えてデータ設計していく重みを感じます。

レッドオーシャンの給与計算システム市場に今漕ぎ出す意義

—— ここから少しお話を変えると、個人的にとても気になっているのが、圧倒的な後発プロダクトとしてレッドオーシャンに参入していくことについてです。先行者の強みに追いつかなければいけないだけじゃなくて、プロダクトとしてもまだ足りないことが多いのってすごく高いハードルに感じるんですが、どんなふうに捉えてますか?

chankes:これはむしろ、今だからこそ参入する意義を感じていることの方が多いです!

—— え、そうなんですか!?

chankes:そうなんですよ。さっき話していた、前後の工程をカバーしていることがすごく強いですし、それに他のプロダクトチームの開発計画とも、給与計算機能の開発の目的がバッチリとアラインできている感触があります。たとえば、給与計算後に行う手続きのうち、まだ対応できていなかった書類がガンガン作成できるようになっていっていたり、これまでも長年要望いただいていた家族情報の履歴の管理もついに着手できていたり…。労務領域全体として、プロダクトのシナジーを高めるために、チームごとのOKRのレベルから連携できていることもすごくありがたいなと思っています。

sayama:これは、基本機能のPMからしても大きいですよ。実は僕が入社する前にはまだ給与計算機能を作る予定がなかったんです。でも、「人事労務に必要なデータを管理できるようになる」というミッションを担当するなら、やっぱり給与計算って絶対にあったほうが価値が出るし、面白くなる。ぼんやりと思い描いてた、集めたデータがより有益に使われれていく未来が、今こんな形で実現していこうとしてることも、そのために山積する課題が伸びしろでしかないことも、とにかく楽しいですよね。

haji:届出書類機能もそうですね。これまでは、書類を作成するために、外部の給与計算システムから情報を取り込んでもらう前提で考えてました。ただ、それだとどうしても情報連携の手間が残るので、対応可能な手続きを増やしても、使ってもらえないことが多かったんです。だから、SmartHRの給与計算機能との連携によってこの手間がなくなれば、もっとお客様に使ってもらえるようになると思います。そのために、給与計算を含めた業務フローの全体を意識するようになりましたね。

chankes:多くの給与計算システムが、「まず給与計算システムをつくって、そこから情報収集の手段に広げていく」という順序で成長してきた中で、真逆のアプローチを取ってるのがSmartHRです。でも、だからこそ、前後の工程をカバーしている機能を活かせるし、前後の工程と接続するために必要な開発協力も周りのチームと柔軟に連携しながら進めていける状態になっているんですよね。逆に言えば、全従業員を巻き込む必要がある「情報収集」をこれからゼロベースで作らなきゃいけないとしたらその方がよっぽど大変ですよ。

—— 「マルチプロダクト開発」の威力が今後ますます発揮しやすくなっていく、ってことですね…!!ここまでいろいろ伺ってきましたが、最後に、それぞれ一言ずつメッセージをお願いします!

haji:まだまだできてないことばかりで、届出書類機能と、基本機能や給与計算機能などのプロダクト間の連携をもっともっとよくしていかないといけないという危機感があります。ただ、労務領域全体でよくしていこうという追い風が吹いているので、とても進めやすいです。引き続きがんばります。

sayama:給与計算が人事労務業務の心臓部で、これをマルチプロダクトで叶えるにはやっぱり前後の工程を扱うプロダクトとのデータ連携部分が動脈だなと思ってます。給与計算を中心にして、どこのプロダクトともシームレスにつながる人事データベースをつくっていくって、すごくチャレンジングですよね。その、マルチプロダクトとしてのダイナミックさをPMとして面白がってもらえる人に是非仲間になってほしいなと思います。

chankes:僕は給与計算の業務を本気で変えられると信じてます。今は、いろんなところからデータを集めて、給与計算のためのデータのメンテナンスから始めているのが給与計算業務なんです。でもそれって本当は順番が逆だと思ってて。給与って結果なんですよ。他の業務を適宜進めていれば、必要なデータは自然と揃ってくるはずなんです。だから、毎月データをかき集めてメンテナンスから始めるのではなく、SmartHR上で情報収集や評価・配置検討の業務を実施していただくことで、常にデータが最新になっていて、給与計算を始めるときには、計算が既に終わっていて、いきなり計算結果のチェックから始められる。もっと言えば、AIを活用してそのチェックも自動化される。そういう世界に少しでも早く近づいていけるようにしたいですね!

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SmartHRはこれまでも、人事労務の様々な業務をカバーするべくプロダクトを成長させてきました。 ですが、カバーできていない範囲も多く、また、カバーしているといってもプロダクト間の分断による使いにくさなどがまだまだ山盛りです。 少しでも興味をお持ちいただけましたら、カジュアル面談などにぜひご応募ください!

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