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仮説を立て、ユーザーを巻き込んで検証し、価値を届ける —— メッセージ機能PM gackeyさんにインタビュー

SmartHRは、新しくメッセージ機能をリリースしました!

そこで今回は、メッセージ機能の担当プロダクトマネージャー(以下、PM)のgackeyさんに、開発の裏側を伺ってきました。gackeyさんの仮説を立てて、検証し、ストーリーを組み立て、周囲を巻き込んでいく様子をお伝えできれば幸いです。

労務担当者から従業員への連絡。それだけのこと…?

—— まずは簡単な自己紹介をお願いします。

SmartHRのPMのgackeyです。入社前は、新卒で働いたブライダル企業からIT企業へ転職し、不動産系のウェブサービスのPMとして、新規事業の立ち上げやプロダクト開発に携わっていました。2020年にSmartHRに入社してからは、基本機能のPMから始まり、いまは労務担当者と従業員の間のコミュニケーションを担う2つのプロダクト、スマホアプリとメッセージ機能を担当しています。

—— メッセージ機能は先日リリースされたばかり(2025.3.18リリース)ですね。どのような課題を解決するものでしょうか?

労務管理業務では、労務担当者と従業員の間にコミュニケーションが発生します。例えばご家族の扶養に関する話や、引っ越しの予定、休職にまつわるケアなど、情報の取り扱いにも注意が必要なやりとりが多く存在します。一方で、アルバイトやノンデスクワーカーのように、業務用の連絡ツールのアカウントやデバイスを持たない従業員ってとても多いんです。その場合、これまでは社内の固定電話や内線にかける、(社用アドレスを持っている)上長からの伝言、ロッカーやタイムカードに付箋を貼る(!)などなど、さまざまな手段でアプローチされていて、とても非効率な状況でした。また、望ましくないなぁと思いながら個人携帯やSNSのDMを使うなど、プライベートな通信手段に頼ることもままあるそうで、公私混同が起きやすくなる課題もありました。

そこで、SmartHR上でメッセージ機能を提供することで、労務担当者と従業員のコミュニケーションをスムーズに、かつプライバシーも守って安心に行なえるようにしました。

—— おお、すごく便利そうです。リリース後のお客様の反響はいかがですか?

はい、すでに多くの企業から引き合いをいただいていて、導入・活用も始まっています。正式リリースに先行して試験的に利用されたお客様からも、ポジティブなフィードバックはいただいていたのですが、予想を上回る売れ行きで驚いています。

参考:非効率な伝言ゲームから脱却!メッセージ機能で実現する“三方よし”の連絡体制|SmartHR

—— 素晴らしい成果ですね!そこまで需要があるメッセージ機能が、なぜ「いま」リリースされることになったのでしょうか?

はい。実は以前から熱い要望をいただき続けていた機能で、会社としても開発を検討したことがあるんですよね。ただ、当時は「当面は開発しない」という判断になりました。SmartHRが提供している各プロダクトごとに、連絡をしたい背景や使い方、必要な温度感が異なることを踏まえ、それぞれのプロダクトごとに改善を検討・推進した方が良いのではないか、という結論だったんです。

でも、その後もお客様からの要望は途切れませんでした。さらに、会社としてもマルチプロダクト戦略を強く推し進めていく中で、「プロダクトごとのユースケースに閉じずに、労務担当者と従業員の間をつなぐ」という観点で、メッセージ機能の機運が再び高まってきたんです。特に、「SmartHR上で行なわれている業務に限らず、労務担当者にとって、連絡が必要なケースは広くあるはずだ」という仮説が大きなポイントでしたね。その結果「いま」になりました。

—— なんと、メッセージ機能の開発は以前も検討されていたんですね。そのような過去があった中で、どのように検討を進められたのでしょうか?

まずは徹底的に情報を集めることから始めました。いろんな企業からさまざまな要望をもらっているので、どれかを鵜呑みにしすぎないように、過去のヒアリングの録画を網羅的に見たり、要望管理ツールに溜まっている情報を見渡したり。こうして集めた情報を元に、他のPMに壁打ちさせてもらいながら、課題の仮説を組み立てていきました。

課題の仮説は「本部で働く人事労務の担当者から、従業員への直接の連絡手段が十分にない」「そのため、コミュニケーションにかかる時間が業務遂行の負荷になっている」というものです。これを解決するためのソリューションの仮説を立てて、検証すべき指標を設定していきました。

特に、課題単体を絞ること以上に、この課題を抱えているのは「誰」なのか、またその課題の背景にある状況はどのようなものなのかを整理することで、課題の解像度を構造的に上げることを意識しましたね。

—— なるほど、まずは課題とソリューションの仮説、加えて検証のための指標を立てることに注力されたんですね。

お客様に「自分たちの課題が解消しそうかどうかちゃんと確かめる」スタンスで臨んでもらう

—— それで、検証はどのように進められたのでしょうか?

はい、そもそもの検証の目的は、「顧客にとっての価値の多寡」と「事業として成立するか否かの判断材料」を明らかにすることでした。そのためにはお客様を巻き込むことが必須だったので、企業規模や業種、業態などを元にリストアップし、状況のヒアリングとともに検証への参加を依頼させていただきました。

ここで意識したのは、お客様に「SmartHRのお願いに協力して使ってあげる」というスタンスではなく、「(この機能を使うことで)自分たちの課題が解消しそうかどうかちゃんと確かめる」というスタンスで臨んでもらうことです。そのために、打診にOKをいただいた企業様と一緒に検証計画を立てることにしたんです。計画を立てる際には、「以前のヒアリングでは、課題はこれこれで、こうなりたいと話されていました。実際、使ってみて◯◯な状態になったら価値があったと言えそうですか?」や、「この状態を達成するには、もう少し▢▢な業務をされている人にも使ってもらった方が確かめられるのではないでしょうか?」などのように、お客様が「価値がある」と感じるには何が起これば良いはずか、それが起こるかを確かめるには、検証時に誰がどんなアクションを取る必要がありそうかを、お客様ごとにすり合わせていきました。

このタイミングでお客様と協力関係が築けたのは思っていたよりもずっと、後で効いてきましたね。そもそも、日頃からお客様との関係をしっかり築いてくれていたカスタマーサクセスの方々に感謝です。

—— すごい、お客様ごとに丁寧に検証打診のコミュニケーションを取られたんですね!それで検証はどうなりましたか?

検証に参加されたお客様には、実際に検証用のメッセージ機能を使っていただき、期待していた結果が得られるかを確かめていただきました。事前に決めておいた検証指標を測定したり、アンケートをとったり、直接ヒアリングさせていただいたり… お客様にしっかり自分ごととして参加していただいたおかげで、導入にあたってのクリティカルな障壁を把握することができました。

さらに、検証期間中もいただいたフィードバックに応じてプロダクトの改修を行ない、またフィードバックをいただいて改修し… というサイクルをすばやく回しました。これは本当にやって良かったです。検証の当初の目的「顧客にとっての価値の多寡」と「事業として成立するか否かの判断材料」を明らかにすることの達成だけでなく、「検証中に改善した」という実績によって、今後も改善されていくだろうというお客様の期待につながりました。現場の実務担当者の方々に価値を実感してもらえたのも合わさって、製品化が決まった後の商談も進めやすくなるという副次的な効果が得られました。

—— おお、検証も順調だったのですね。となれば、その後の製品版の開発への流れもスムーズだったのでしょうか?

検証を経ての意思決定は慎重に進めましたが、おかげで、製品化自体に対しての社内の合意形成はとてもスムーズでした。

検証の時点で、製品化への手応えは感じていましたが、製品版の開発を進めるかどうかは、社内の経営会議で承認を得る必要があります。そこで、経営陣が判断できるように、プロダクトの初期の価値、競合と勝ち筋、当面の戦略をストーリー立てつつ、裏付けとなる数字を持って説明しました。このとき、検証で集めたユーザーの生の声や、定量のデータが強い根拠になりました。

経営会議の資料は、PMM(プロダクトマーケティングマネージャー)のsakkuさんと膝を突き合わせて書き上げていきました。仮説形成から検証協力企業の獲得、実際の検証プロセスなど、メッセージ機能の立ち上げ全体を通して、sakkuさんとはずっと二人三脚でやってきましたが、本当に心強かったですね。

—— そして無事にリリースされてからは順調に売上が立ち始めていると。本当にすばらしい成果ですね。

What is it so what?を自分に問い続ける

—— お話を伺っていると、gackeyさんの仮説を立てる力、それを検証し、ストーリーとして組み立てて、周囲を巻き込んでいく力を強く感じました。この力はどのように培ってきたのでしょうか?

前職でもPMをやっていたときに、経営陣に企画や計画を提案したり説明する機会が多くあったことが、いまに活きています。経営陣から、「事業的な価値は何か?」「本当にユーザーが求めているものなのか?」「なぜ私たちがやるべきなのか?」を徹底的に問われるので、自分の言葉で説明しきれるか、その後の問いに答えられるかを最初に考える癖がつきました。なので、メッセージ機能の立ち上げでも、経営会議で話す必要がありそうなことから逆算して考えました。もう少し言うと、「What is it?」(それ、なあに?)「Is it so?」(なんでそうなの?本当に?)「So what?」(それで、何が言いたいの?)に答えられるかを、常に自分に問い続けています。

ほかにも、SmartHRに入社してから取り組んできた、履歴機能やマイナンバー機能の開発、スマートフォンアプリ開発など、「SmartHRとしてのSaaS開発」においてもいろいろな経験を積めたことが今につながっている気がします。

—— なるほどですね。特に、gackeyさんはユーザーの価値にフォーカスする力が強い印象も受けるのですが、なにか背景があるのでしょうか?

それも前職までの経験が大きいですね。実は、私の最初のキャリアはウェディングプランナーでした。ウェディングプランナーってすごくPMっぽくて、お客様の要望の一番の理解者である必要がある一方で、実際に手を動かすのは他のプロフェッショナルの方々なんです。ウェディングプランナーが生むべき価値は「お客様にとっての最高の1日」ですが、自分だけでは何もできませんし、言われたことをそのまま実行すれば良いとも限りません。お客様にとっては、衣裳やお料理やお花、そして招待したゲストの全員の様子も、すべてを含めてその日の「体験」だからです。そのためには、全体最適の観点と、プロフェッショナルな仲間とお客様の望みを充分共有できていることがとても大切です。なので今も、お客様からの個別具体の要望に対してユーザー体験全体を考えるとどうか、という視点や、顧客の要望は背景ごとチームに伝わっているだろうかという視点を忘れないようにしています。

—— 過去のいろんな経験がいまのPM業に活きているんですね。

課題を特定したとき、解決したときにやりがいを感じる

—— そんなgackeyさんが、お仕事でやりがいを感じられるのはどんなときでしょうか?

そうですね、課題の "核" を掴んだと感じたときと、その課題が解決できそうな手応えを感じたときでしょうか。

今回のメッセージ機能の立ち上げでもそうですが、仮説を立てて、検証を進めていくと、「課題はこれだ!」って思える瞬間があります。その時点ではまだ半信半疑なんですが、ほかのひとにも話して「課題それじゃん!」って言ってもらえると、やっぱりこれが真の課題なんだ、これで進めていけるぞってすごくやりがいを感じます。

でもやっぱり、プロダクトをリリースしてから、実際に利用の数字が伸びていたり、ヒアリングさせていただいたお客様の満足そうな表情に感じる、課題がちゃんと解決できてる!っていう実感にはかないませんね。

—— なるほど。ここまで伺ってきた、物事の本質に迫ろうとするgackeyさんのスタンスともとても一貫しているなと思いました。

SmartHRは、みんなで事業価値と顧客価値を追求するカルチャー

—— そんな活躍されているgackeyさんですが、SmartHRのカルチャーによって助けられている部分はありますか?

はい、もちろんあります。PMなので人を巻き込む必要があることが多いのですが、すごく協力を得やすいんですよね。まず、周囲になにかを提案したり、依頼したり、相談したときに、リアクションがとてもポジティブなんです。他者からの相談ごとに対してウェルカムな空気に本当に支えられていると思います。

あと、みんなが共通した前提を持てていると感じられることも大きいです。たとえば、短期的に売上が上がれば良い、ではなくて、顧客価値と事業成長のどちらも大事にしたい、ということ。それから、誰が言ったかではなくて、何が本質的な価値・課題なのかにフォーカスできるところとか。

私が入社した頃は、いまほど情報発信が盛んではなかったですが、入社前後で何か悪いギャップを感じたことはまったくありませんでした。

—— ありがとうございます。SmartHRの文化が、gackeyさんの活躍を後押ししていることがよくわかりました。

メッセージ機能はマルチプロダクト戦略の要になる

—— 最後に、メッセージ機能の今後について、話せる範囲でお伺いしたいです。

メッセージ機能は、労務管理業務をはじめとしてバックオフィスにおけるユースケースが幅広く、大きな伸びしろがあります。なので、特定のユースケースやプロダクトに限定せず、横断的な動きを今後たくさんやっていきたいと思っています。全社的にもマルチプロダクト戦略を推進しているので、その戦略の要になれるように頑張りたいですね。

—— 本日はありがとうございました!

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