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VPoEを引き継ぐ技術

VPoEを引き継ぐ技術

SmartHR アドベントカレンダー2024シリーズ1の25日目の記事です。ラスト〜

こんにちは。SmartHR VP of Engineering の morizumi です

10月にテックブログ等でも発信した通り、僕は2024年の末に VPoE を退任して2025年の3月くらいに SmartHR を退職する予定です。そこで今回は VPoE を引き継ぐ技術と題しまして、引き継ぎの際にやったことや考えたことを書き記していきます。VPoE とか CTO とか、そのあたりのレイヤーの引き継ぎ記事みたいなものって世の中意外と少ないんですよね。なぜなんでしょうね

最初にこの記事に関する期待値調整をしておくと、「そんなことやってたんだすごい…!」みたいなものは特にないと思います。読み進めていくと、ただ一緒に仕事をしていただけでは? と思われる方も多い気がします。というか、引き継ぎってそういうものだろうというのがこの記事の結論だったりします

とはいえ一緒に働いていて気づいたら引き継ぎできてました、だとあまりに味気ないですし、世の中に出すテキストとしてあまりにお粗末なのでもう少し詳しく書いていきます。世の中の引き継ぎがこの記事によって0.1%でもよくなることを願って

(前提として、僕は SmartHR に6年半ほど在籍していてうち3年が VPoE を務めた期間で、後任の齋藤さんは3年半ほど在籍していてうち1年半ほどが複数組織をマネジメントする EM を務めた期間、という状況です)

そもそも引き継ぎとは

みなさん引き継ぎって年に何回してますか? ちょっとしたプロジェクトのリードの引き継ぎ、とか小さめのものを除くと、僕は SmartHR 在籍期間中はおそらく年に1回くらいのペースだったと思います。特にマネジメントするチームを引き継ぐ、という形が多かったですね。今回の VPoE 引き継ぎも技術統括本部という単位でのマネジメントするチームの引き継ぎにあたります

マネジメントレイヤーにおける引き継ぐべきものには何があるのかを整理してみました

  • 業務内容
    • これは当たり前ですね。日々どんな業務をしているのか、どういう人たちと関わっているのか、どういった課題があるのか、というのは引き継ぎのメインになってくるかと思います
  • 意思決定基準
    • 例えば、採用においてどういう人を採用するのか、人事評価においてどういう人を高く評価するのか、"理想の"開発組織に近づける選択肢はなにか、などなど多岐に渡ります
  • 社会関係資本
    • これはピンと来ないかもしれませんが、例えば 信頼 / プレゼンス / 社内・社外ネットワーク など人間関係の資本を指します。社会学の文脈における社会関係資本という言葉の定義と一致しているのかはあまり自信がありません

大きく、この3つが引き継ぐべきものだろう、というのが僕なりの結論です。細かく見ていくと、技術戦略だったり組織の文化だったり、主要 KPI をどう追っているのかや各種ドキュメントの置き場所など様々ありますが、網羅的な ToDo リストを作りたい場合は ChatGPT o1 あたりに聞いてもらった方が正確だと思います

この記事では特に、意思決定基準と社会関係資本について取り上げます。世の中的に言及されることが少ない印象があるので

最初に、引き継ぎ全般に関する考え方

「引き継ぎとは、そのときが来てから始めるものではなく、常に引き継げる状態を作っておくもの」であると思います

引き継ぎ可能な状態を早いうちから作って引き継ぎタイミングを迎えるのがよい、ということを表現した図
引き継ぎタイミングでがんばっても間に合わないよ、を表現したい図

まあ、それができれば苦労しないよという話ではあるのですが。外から VPoE を採用してきて引き継ぎ期間は1ヶ月だけ! のようなケースではそうもいきませんよね。とはいえ、短い期間の中でなにを引き継ぐかを考える際の参考にはなるかもしれません

意思決定基準を引き継ぐ、とは

マネージャーのみなさんは日々色んな意思決定をされていることと思います。そして、色んな種類の意思決定基準を心の中に持っていたり、ドキュメントとして残したりしていますよね

  • 採用基準
  • 人事評価基準
  • エンジニアの等級に関する基準
  • 組織構造のあり方に関する基準
  • 技術スタックの変更に関する基準
  • 支出に関する基準
  • etc...

明示的なものから暗黙的なものまで、とにかくたくさんの基準があります。実際に引き継ぎをしてみてわかったのですが、それらの基準すべてを引き継ぐことは不可能です(そして、すべてを細かく引き継ぐ必要もないでしょう)。ですが、なるべく引き継ぎ前後で一貫性のある意思決定が行われるようにすることはできると思います

そのために必要なのは、「一緒にやる」です

それはそうだろう、と思われたかもしれませんが、結局一緒にやるしかないのです。SmartHR では、ここ1年くらい僕1人しかやっていないという類の業務はかなり減りましたし、仮に1人でやったとしてもその結論に至る背景を説明するようにしていました

採用業務を例に見てみると、SmartHR の最終面接は2名で実施しています。今は僕が出ることもあれば出ないこともある、というプロセスになっていますが、去年まではすべての面接に僕が出ていました。僕と一緒に面接に出た際には、当然ながら採用の合否を僕と話し合うことになります。その中で、お互いにどのような理由でどのような結論に至ったのかを説明します(細かい点として、どちらかの結論に引っ張られないように合否の意見は同じタイミングで出しています)。そういったすり合わせの中で、徐々に基準がすり合っていき、最初は多かった合否判定割れも今ではほとんどなくなりました

SmartHR では同じようなことを人事評価においても、エンジニアの等級判定においても、僕と一定以上のレイヤーの EM で一緒に行っています。「一緒にやる」を実行する上では Why を話すのを大事にしていて、ちょっと過剰かもしれないと思うくらいになぜそうするのか、というのを話していました。「道に置かれた柵を撤去する前に、その柵を設置した理由を理解せよ」という引き継ぎにまつわる警句がありますが、まさしく柵を設置した理由を理解してもらっていたわけですね

やっていてよかったなと思うのは毎週開催している EM の定例で、判断に迷っていることを相談したり、横の EM から意見を集める発散的な場として活用したり、そんな使い方をしています。その定例の中で各 EM が考えていることや僕の考えが言語化されて共通認識になってくるので、マネジメントチームづくりとしても有用だったなと感じます。また、今年初めて「中長期の課題を洗い出す会」というのを開催したのですが、これも各々が感じている重要度の高い課題はなにかをすり合わせる場になってよかったです

社会関係資本を引き継ぐ、とは

マネージャーとして日々仕事をしていく中で、色んな社会関係資本が蓄積されていくと思います

  • 個人への信頼
  • 影響力
  • 縦・横・斜めの関係
  • 社外とのネットワーク
  • etc...

これは僕自身もうまくやれた自信はないのですが、非常に重要な引き継ぐべき資本だと思います。実際に業務を進める、VPoE として影響力を発揮していく上では、社会関係資本がないとかなり動きづらくなります。幸いなことに後任の齋藤さんは3年半ほど在籍期間があるので、ご自身で信頼を獲得できていましたし、社内でのネットワークも一定できていました

僕がやったことはそんなに多くなくて、社外ネットワークに関してはわりと薄かったので何名か社外の CTO / VPoE の方に紹介させていただいたり(Findy 社の皆さま、VPoE Summit に招待いただきありがとうございました)、僕が情報交換目的で 1on1 をしていた社内の方には「今後は齋藤さんとよろしくお願いします」というような紹介をしたり、細かいところだと MTG 中に結論を齋藤さんにお任せしてそれを追認したり、といった感じです。プレゼンスの観点では、SmartHR はプロダクトエンジニアの情報交換目的で毎週定例を実施しているのですが、その定例の進行を齋藤さんにお任せしてなるべくみんなの前に立ってもらうように、というのもやりました

意思決定基準を引き継ぐのセクションで述べた通り、SmartHR では EM の定例を毎週開催しているので、そこで EM 同士の関係資本が自然と蓄積されていたのは引き継ぎにあたってかなり有利に働いたなと感じています。急にあまり知らない人が VPoE になりますと言われてもピンと来ませんしね

社会関係資本については、こういう風に引き継ぐとよいですよというのをあまり具体的に書けず恐縮なのですが、人と人との関係から生じるモノも重要な引き継ぐべき資本なんですよということが伝われば幸いです

引き継ぎスケジュール

最後に、僕が退職を会社に伝えてからどういうスケジュールで VPoE 交代に向けて進んできたのかを紹介します

  • 2024/05 上長に退職を通知
  • 2024/07 齋藤さんに森住の退職通知と VPoE 就任の打診
  • 2024/08 VP / Director / Mgr など SmartHR における上位マネジメント層への森住退職と VPoE 交代の通知を実施
  • 2024/09 Chief / Member など現場に近い層への通知を実施
  • 2024/10 社外に対してアナウンス
  • 2024/12 森住 が VPoE を退任
  • 2025/01 齋藤さんが VPoE に就任

こんな感じで、通知から退任まで半年以上かかってますね。実際動き出してからは人事の方に社内アナウンスやらなにやら色々と調整いただいて、全社向けアナウンスの際には僕が育休中だったこともあってビデオレターを撮影いただいたりもして、とにかく色んな人にお世話になりながら気づいたら年末になっていました。ここには書いていない、僕の知らないところでの動きも色々あったことだろうと思います。みなさん本当にお世話になりました

この記事を読んでいる VP の方。退職を伝える際は半年くらい前には伝えるとみんなハッピーになるかもしれません

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今後は VPoE の齋藤さんが中心となって、よりチャレンジングで面白い開発組織にしていってくれると思います!

少しでも興味を持っていただけたら、カジュアル面談で SmartHR メンバーとざっくばらんにお話ししてみてください!

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