こんにちは、今年の3月からCRE(Customer Reliability Engineering)チームに配属になった s_arikawa です。それまではSmartHRの労務領域の機能開発チームに所属していました。
私はCREになってまだ1ヶ月も経っていないため、「他社のCREチームはどんな働き方をしているのだろう」という関心がありました。ただ、以前から東京で開催されていたCRE Campは、福岡からリモートで働いている私には参加が難しかったです。今回、「Fukuoka CRE Lounge」が福岡で開催されることを知り、迷わず参加を決めました。
「Fukuoka CRE Lounge」は、SmartHR・ヌーラボ・マネーフォワードの福岡拠点3社が集まり、CREの役割とキャリアの可能性について議論するイベントです。 本記事では、各登壇の内容と印象に残ったポイントをお届けします。
イベント概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| イベント名 | Fukuoka CRE Lounge 〜3社が語る、CREの過去・現在・そして未来〜 |
| 日時 | 2026年3月19日(木)19:00〜22:30 |
| 会場 | マネーフォワード 新福岡拠点(福岡大名ガーデンシティ 16F) |
| 主催 | 株式会社SmartHR、株式会社ヌーラボ、株式会社マネーフォワード |
| 参加者 | 約30名 |
| connpass | Fukuoka CRE Lounge 〜3社が語る、CREの過去・現在・そして未来〜 |

SmartHR
SmartHRからは、3名がリレー形式で登壇しました。
CREが担うべき "顧客信頼性" とは何か?を考えてみる(a-know さん)
最初の登壇はSmartHRのa-knowさん。「お客様がプロダクトに対して『信頼できる』と感じるのは、プロダクトそのものに対してだけなのか?」という問いから始まる発表でした。

信頼が毀損される場面として、エラーの頻発だけでなく、サポート対応の遅延や的外れな回答、営業とCS(カスタマーサクセス)間の情報連携不足、顧客の利用実態への理解不足なども挙げられていました。
つまり、「プロダクトそのもの」だけでなく「プロダクトを取り巻く多くの担当者から提供されるサービス全体」が信頼の対象になるという考え方です。
この拡張的な「プロダクト」概念のもとで、CREが取り組む施策としてエンジニアリングによるサポート品質の向上、顧客利用データの民主化、プロセス設計支援などが紹介されました。 また、こうした活動はRevOps(Revenue Operations:営業・マーケティング・CSなど収益に関わる部門の連携を最適化する考え方)にも近く、エンジニアの「怠惰」を美徳として他職種の業務効率化を図る姿勢が語られていたのも興味深かったです。
正しい問いが正しい答えをつくる ― カスタマーサポート出身エンジニアがCREで解きたいこと(koichi_s さん)
続いてkoichi_sさんの登壇。「質問に正しく回答したが、顧客の困りごとは解決しなかった」という経験談から始まりました。 顧客・ビジネス・開発それぞれの立場で同じ課題を見ていても、問いの組み立て方は違います。 koichi_sさんは、CREはその間に立ち「問いを再構築する」役割を担うと主張しており、CREの核心的な役割の一つだと感じました。
The SDLC Is Deadな世界線でCRE がこの先生きのこるには(kozuki さん)
kozukiさんからは、「The SDLC(Software Development Lifecycle) Is Dead」の話題を起点に、AIによって人間が意思決定に集中する世界線におけるCREの役割についての発表でした。

CREの類型に「Customer Observability型」を新たに提唱し、顧客体験の可観測性を高める役割としてCREを定義していたのが新鮮でした。
kozukiさんの登壇資料の起点となった記事は以下です。
ヌーラボ
ヌーラボからは、お一人がまとめて登壇しました。
CRE1.0(立石さん)
ヌーラボでは2025年4月にCRE部を設立し、Backlog・Cacoo・Nulab Pass(かつてはTypetalkも含め4プロダクト)のテクニカルサポートをまとめた組織として運営しているとのこと。 Cacooはユーザー400万人を抱えるプロダクトで、規模感に驚きました。
テクニカルサポートがCREに発展した経緯もあり、カスタマーサポートや調査がメイン業務になっています。一方で、社内向けの顧客情報管理ツールの開発保守やナレッジ活用のAIツール開発にも取り組んでいるそうです。
また、エンジニアが調査した技術的な内容を顧客にわかるように翻訳したり、逆に顧客の声を技術側に伝えたりする「コミュニケーションリード」としての役割も担っているとのことでした。
現状の課題として「テクニカルサポートの領域から飛び出せていない」という認識を持ちつつ、ナレッジ管理にAI(Backlog・Intercom・ZendeskのデータをナレッジDBに投入)を活用し、課題解決から「課題消去」へのシフトを目指しているそうです。
マネーフォワード
マネーフォワードからは3名がリレー形式で登壇しました。
CREがSLOを握ると何が変わるのか(masuda.satoru さん)
masuda.satoruさんは、SRE(Site Reliability Engineering)を4年間やってきた経験から、CREへの転身を語る発表でした。
SRE時代にCUJ(Critical User Journey:ユーザーにとって重要な操作の流れ)を定めてSLO(Service Level Objective:サービスレベル目標)を毎月レビューしていたものの、開発チームがSLO違反に対応しきれなくなっていったという課題がありました。 原因を探ると、ユーザーは速度ではなく機能の充実を求めていたことが判明。 SREチームがユーザーに近くないため要望を認識できていなかったのです。
「SLOは水物である」という言葉が印象的で、ユーザーに近いCREこそよりよいSLOを作れるのではないかという主張に説得力がありました。

CREは何をすると価値になるのか(Hide さん)
CREが組織やユーザーに対してどう価値を発揮していくかを、4つのレベルで示した発表でした。
- Lv1:運用業務を巻き取る
- 組織への貢献
- Lv2:運用業務を巻き取りつつ、小さいけれどもやらなくてはいけない開発業務を引き受ける
- 組織とわずかなユーザーへの貢献
- Lv3:運用業務を巻き取りつつ、インパクト大だが優先度低い開発業務を引き受ける
- 組織とユーザー双方への貢献
- Lv4:運用業務の改善・自動化と並行し、インパクト大で優先度低い開発業務を引き受ける
- 組織とユーザーへの大きな貢献
段階的にCREの価値を高めていくロードマップとしてわかりやすく、自チームの現在地を考える良い物差しになると感じました。
グローバルなチームで挑む問い合わせ対応(Lâm さん)
クラウド会計プロダクトの問い合わせを担当するLâmさんからは、日本語表示のプロダクトに対して日本語を母語としないメンバーがどう対応しているかという独自の視点の発表でした。
チーム内のコミュニケーションは英語、CSチームとは日本語、社内の設計書もほとんど日本語。さらにインドと日本で3.5時間の時差がある中で、AI翻訳の活用・両言語メンバーによる架け橋・コミュニケーション頻度の向上で乗り越えてきたそうです。今後はプロダクトエンジニアにもローテーションで問い合わせ対応に入ってもらう仕組みを整備していきたいとのことでした。
一般登壇LT
スポンサーLTに続いて、一般参加者による3名のLTが行われました。
知って良かった「CRE」(nsk さん)
顧客の業務システム開発を担当するエンジニアのnskさん。顧客からカスタマイズの実装依頼が来た際、要望通りに内部分岐で対応する(A案)のではなく、管理機能を追加する(B案)を提案し採用された経験を紹介していました。 これができたのは、サービスの理解・ユーザーの業務運営の理解・技術の理解の3つが揃っていたからこそだといいます。 自身の仕事がCREに近いと知り、CREという定義を知って良かったと語っていました。
えっ、また僕はCREになるんですか?(sakopon さん)
エンジニアグループ希望だったがCREチームに配属となったsakoponさん。過去のCRE経験での「問い合わせ対応がつらい」というネガティブな記憶がある中で、マインドセットの切り替えが重要だったと語りました。
「配属はコントロールできなくても、マインドセットを変えることでモチベーションに繋げられる」「将来のキャリアから逆算して今のキャリアでどうするか考える」という考え方は、CRE配属間もない自分にも響きました。
QAエンジニアから見た信頼性をつなぐ営み(ゆっきーさん)
マネーフォワードのQAエンジニアであるゆっきーさん。社内のCREチームがE2E(End to End)テストやUnit Testの拡充をしていることに気づき、QAエンジニアと似た領域にいることを発見。しかし時間軸が違うことがポイントで、QAはデリバリー前、CREはデリバリー後を担当しています。
「攻めの運用=信頼性のシフトレフト」という概念は、QAとCREが連携する可能性を示唆しており、職種横断で信頼性を考える視点として刺さりました。
パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、CREの「過去・現在・未来」をテーマに3社の視点が語られました。SmartHRからa-knowさん、マネーフォワードからCRE組織ごとのリーダー3名、ヌーラボから1名が登壇し、MCはSmartHRのudzuraさんが務めました。
各テーマについて、MCからの問いかけに対して各社が順に回答する形式で進行しました。

テーマ1:CREになる前のCREに対するイメージは?
- マネーフォワード:「泥臭い」イメージがあった
- ヌーラボ:テクニカルサポートから入った人が多い。攻めのサポートをしたいと思っていたらCREという定義を知った
- テクニカルサポートではないというイメージをメンバーに持ってもらおうとしている
- SmartHR:「CRE」という言葉を作ってからは「CRE」の認知を拡げる活動をしてきた
各社とも「テクニカルサポート」や「泥臭い」といったイメージから始まりつつも、CREという定義を通じてその役割を再定義している点が共通していました。
テーマ2:ぶっちゃけ、今の課題は?
- マネーフォワード:人数が少ないのにプロダクトが多い。多いときは月に70件ほどの問い合わせが来る
- ヌーラボ:テクニカルサポートの意識が抜けていないところ
- SmartHR:問い合わせの数とそれに対応するマンパワーが拮抗しており、根本的な原因を潰すための活動やCREならではの活動に労力を傾けられていなかった。最近チームが増強されてきたので、ここから反撃に転じたい
共通して浮かび上がったのは、CREの問い合わせ対応は認知負荷(コンテキストスイッチ)が高いという課題でした。
AIの活用も話題に上がりましたが、たとえばAIが起票した不具合チケットの説明が長々と書かれている割に要領を得ないといった新たな課題もあるようです。
「全部は守れないのでどこを守るか」という優先度の話や、開発チームとCREチームのコミュニケーション(チャットチャンネルの公開、新規機能キャッチアップへのAI活用など)についても議論が交わされました。
テーマ3:自組織のCREの未来を語ってください
- マネーフォワード:「カスタマー」と呼べるものをすべてCREの対象に内包させたい。社内で「ギルド」を作りCREチーム間の横のつながりを強化。CRE組織をキーとなる部署にしていきたい。品質の事前予防(信頼性のシフトレフト)にも取り組みたい
- ヌーラボ:CREの社内認知を高めたい。新規開発時のステークホルダーとして参加していきたい
- SmartHR:全プロダクトを通じて顧客の信頼性の可観測性を高めていきたい。RevOpsとしてCS・Sales・Devをひとつなぎにしたい
各社とも「問い合わせ対応」の先にあるCREの役割を見据えており、その方向性には「可観測性」「社内連携」「ステークホルダーとしての参加」など、各社の独自性が色濃く出ていました。
「あなたにとってCREとは?」
- ヌーラボ:CREは開発と顧客の中心にいる存在
- マネーフォワード:HUNTER×HUNTERのドッジボール回におけるキルアの役目(笑)
- マネーフォワード:CREはロールとして垣根がない。垣根のない立場だからこそ、「信頼性」を高める活動を幅広く展開していける
- マネーフォワード:将来的にDevのキャリアはCREになっていくと思っている
- SmartHR:CREのキャリアロールを「ライフワーク」として作っていきたい
- MC:自由な発想で顧客課題に立ち向かえる
まとめ
3社のCREが一堂に会したことで、各社の共通点と独自性がくっきり浮かび上がるイベントでした。
共通していたのは、テクニカルサポートからの脱却と信頼性への進化という方向性です。どの組織も「問い合わせ対応」から出発しつつ、課題解決から課題消去へ、そしてプロダクト全体の信頼性向上へとCREの守備範囲を広げようとしています。
一方で、マネーフォワードの「CREの価値レベル」のような段階的なロードマップ、ヌーラボの「課題消去」というキーワード、SmartHRの「Customer Observability」という新しい類型の提唱など、各社のアプローチの違いも興味深かったです。
個人的には、masuda.satoruさんの「SLOは水物」という言葉と、ゆっきーさんの「攻めの運用=信頼性のシフトレフト」という概念が最も刺さりました。CREがユーザーに最も近い立場だからこそ、信頼性を事前に高められる。その前提に立つと、まずは目の前の課題に向き合う必要があります。
SmartHRのCREでも技術的な問い合わせ対応が多く、CRE活動の作業時間を圧迫しているのが現状です。問い合わせ対応における社内の調査業務でのAI活用(過去の問い合わせの検索や仕様調査など)をより高度にし、問い合わせ対応以外のCRE活動にリソースを割けるようにしていきたいと考えています。
また、パネルディスカッションでマネーフォワードの方が語った「将来的にDevのキャリアはCREになっていくと思っている」という言葉も強く印象に残りました。自分自身がエンジニアからCREに異動した経緯と重なるところがあり、CREというキャリアの可能性を改めて確信できた瞬間でした。
懇親会では、各社のCREチームの組織の規模や成り立ち、メンバーが担っている業務の違いなど、登壇の場では聞けない話も多く聞けました。各社微妙に状況が違う中で、将来的に似たような場面に遭遇したときに参考にできそうな知見が得られたのは大きな収穫でした。
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